第48話 公認と祝福 by the イツメン
長いようであっという間だった夏休みが終わり、俺達にはいつもの高校生活が戻りつつあった。
って言っても、部活の前に勉強という魔の時間帯が復活しただけで、そんなに変わり映えもしない。
それに俺と湯花の関係も、あの一件以降良い意味で全然変わってはない。夏休み中は部活が終わってから2人で居残り練習して、湯花のお弁当を食べて……帰りに乗客が少なかったら手を繋いで帰る。
そんな心地良いローテーションは学校が変わってからも大体は変わらず継続中で……あっ、そういえば大きく変わったことがあったな。ははっ、あれは夏休み終わってしばらく経った時の昼食会だったっけ。
『そういえば海、最近お弁当率高くね』
『確かに、学食食べてないな』
うっ、こいつら余計なところに気が付くな……
『てかほとんど毎日じゃない。しかも……彩りも凄くておしゃれだよねー』
頼むからそれ以上何も言うな白波!
『そいえば前からずと思ってたんだけど……湯花ちゃんと雨宮君のお弁当のおかずって、なんか似てない?』
はっ! 待て待て間野さん、グサッって来たよ。カウンター並みの鋭さなんですけど。
『確かに、今日も……似てるってか一緒じゃない?』
みっ、水森さんまで!? とどめの一撃止めてくださいっ!
『おいおい、海。どういうこった』
『そうだぞ? 説明してもらおうか』
くっ! どどどっ、どうする。湯花どうする? あっ、目合った……って照れてる? しかも観念したかのように頷いた!? これは……隠すべきではないって意味か。
何となくお弁当作ってるの知られたら、恥ずかしくなるかもってあえて言ってなかったけど……こいつらには隠しておく必要もないか。
いいんだよな? 湯花。言っちゃうぞ。
『実は……そう言うことなんだよ』
『そっ、そういうことってお前……』
『いっ、いつの間に……』
『ままっ、まさか……』
『『付き合ってんのぉぉ!?』』
バカ野郎! 声でデカいんだよっ!
『しっ、静かにしろよっ!』
『えっ、湯花ちゃん本当?』
って湯花! 照れながらコクりって頷いてないで、まずテンション暴走気味なこいつらを止めてくれ。でもやっぱ照れ顔も可愛いから許す。
『ほほぅ、そんな気はしてたけどまさか本当に付き合ってるとはねぇ。いつからいつから?』
『なるほど、夏合宿の時だね』
おいーっ! そこで取り調べみたいなことしてる2人! まるで新人刑事とベテラン刑事みたいな聞き方してんじゃないよ。しかも多田さん怖っ! なんでピンポイントで当てにきてんの!
『なんだと!!?』
『もう手は繋いだのか?』
『まさか居残り練習も……』
ちょっと君達うるさいよっ! 俺は湯花の反応が心配なんだよ!
『えっ……?』
湯花……いつものお前らしくない動揺=図星=正解だぞ?
『その反応、雅ちゃん正解ってことじゃん』
『ふふっ、照れてる湯花ちゃん可愛いー』
『湯花ちゃん? マネージャーの観察力見くびっちゃダメよ?』
『ごっ、ごめんね? 隠すつもりはなかったんだ。けど……』
『海っ! まだ俺達の質問に……』
『答えてないぞっ!?』
『夏合宿……はっ! まさか肝試しの時!?』
あぁ、一旦男達の声はシャットダウンしよう。
『大丈夫だって、それこそタイミングってものがあるもんね』
『うん。それにしてもおめでとうだよ? 湯花ちゃんに雨宮君』
『けど、部活中はご法度だよ』
もちろん多田さんの言う通り、バスケの時は本気さ。けど、実際皆にハッキリとわかってもらえて良かったのかもしれない。
だってこれからは隠すことなく付き合えるって……ことだもんな?
『もっ、勿論だよ多田さん』
『ふふっ、そこは大丈夫だよ? 雅ちゃん』
まぁそんなこんなで、俺達がそういう関係になったって事実が昼食会のメンバーに知れ渡ったこと。大きな変化と言えば変化なのかもしれない。そして今日も俺達は……
「にししっ、あと1本だよ。今日は調子が悪いですねぇ海君」
「くっ、まぁほとんど毎日俺が勝っても可哀想だしなぁ」
んー、今日はシュートモーションを速くするイメージで勝負に挑んだけど……絶不調だなぁ。まだディープスリーの方が安定感ある気がする。それに、ここ数日は俺の連勝中だったから、たまには湯花に勝ちを譲りコーラを奢ってあげるのもいいかな。
スパッ
「やりぃ! 私の勝ちー!」
あっ、でもやっぱ負けると相手が湯花でも悔しい。
「ふぅ、負けました」
「久しぶりに勝てた気がするー。海ってばホントスリー上手くなり過ぎなんだもん」
「勝者の余裕ありがとうございます。んで、今日の献上品は? 多分決まってると思うけど……」
仕方ないから、今日はコーラ3本ぐらいおごってやるか。何気に飲んでる姿って無邪気で可愛いんだよね。一気飲みはさせないように注意はするけど。
「ふっふっふ。じゃあいつもの……」
……途中で言うの止めた?
「うっ、うん。決めた! 今日は……ね?」
「おう、なんだ?」
「キス」
「……はっ」
えっ、なんて? キキッキス!? 聞き間違いじゃないよな?
「キス……して……」
「キッ、キス!?」
いや、あの照れてる顔はマジだぞ? いきなりのことで心臓キュッてなったんですけど!?
……でも、そういえば湯花とのキスって夏合宿の時だけだったな。そのあと手は何の迷いもなく繋げるようにはなったけど、キスってまだ恥ずかしくて、なかなかタイミングが分からなかった。多分湯花も同じなのかも。
「まっ、まじか?」
「うん。ダメ……?」
ダメなわけないじゃん。俺も……したい。けど、さすがに体育館じゃあれだし……
「ダメなわけないだろ? けど、ここじゃあれだから帰り際でも大丈夫か? その……駅の駐輪場とか」
「本当? やったねっ」
「でもごめんな? 俺もずっとしたかったけど、恥ずかしくて言い出せなかった」
「海も……同じ気持ちだったんだね? ふふっ」
「湯花もか……じゃあさ? 片付けして早く帰るか?」
「うんっ」
プシュー
よっと。着いた着いた。
「あっ、そういえば海のクラスは文化祭何やるか決まった?」
文化祭ねぇ、確か今月末なんだよな。まぁ誰も斬新的なことやろうって意見が無かったから、満場一致で焼きそば・たこ焼き・フランクフルトといった屋台風レストランで決定したけど。
「定番の屋台風レストランだよ。湯花のクラスは?」
「私達のところは、カフェだよ」
「カフェ? もしかしてメイドカフェ!?」
「ちっ、違うよー! ノーマルなカフェ!」
なんだ、せっかく湯花を始め、間野さん・水森さん・多田さん達のメイド服姿が見られるかと思ったのに……
「そっかぁ、残念」
「あぁ! 変なこと考えてたでしょー?」
「えっ? いやぁ湯花のメイド服姿見たいなって思ったんだよ」
「メイド服? いやっ、だって私なんか似合わないから……」
そうか? どれどれ…………うん、結構似合うと思うけど。
「似合うよ。俺が言うんだから間違いない」
「もぅ……」
やっぱ今まで明るい湯花しか見たことなかったから、こんな照れる姿はギャップがあって尚のこと可愛く見える。おっと、それにご希望の駐輪場にも到着したことだし、周りには誰も居ない……な。よしっ!
「海、どしたの? キョロキョロ周り……キャッ」
誰も居ないことを確認すると、俺は湯花の腰辺りに手を当てて……思いっ切り引き寄せた。
「誰も居ないし、チャンスだと思ってさ」
「急なんだからぁ。でも……嬉しい」
そう言いながら湯花は俺の顔を見上げると、ゆっくりと目を閉じる。
やっぱり、いざってなるとまだ緊張する。けど、俺を待ってる湯花のその色っぽい唇に引き寄せられないわけがなかった。
「んっ……」
唇が重なり合う感覚、柔らかい感触、温かいの温もり。
その全てが嬉しくて、愛おしくて、心地良さが全身を包み込む。
場所が場所だし、夏合宿の時みたいに長くはできなかった。けど、惜しむように唇を離し、目と目があった俺達の顔は……
「海……明日もしてくれる?」
「もちろんだよ」
優しい笑顔で……溢れていた。
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