第45話 外堀はより強固に
夏合宿が無事に終わり、完全休息を強制された今日この頃、雨宮海は……
「うーん、どうしたものか」
そんなことを口にしながら、ベッドの上でゴロゴロしていた。
あぁどうしたもんか、気持ちは決まっているのに……それをどのタイミングで伝えるべきなんだ?
やっぱ2人で居る時だよな。となると居残り練習の時か。
「よっし、俺の勝ち」
「また負けたぁ。もう今日は何のジュース?」
「そうだなぁ。ジュースより湯花が欲しい」
……バカか。気持ち悪いにも程がある。やっぱシンプルにいこう。
「湯花お前のこと好きだ!」
「えっ?」
んー、何かなぁ。それともストメ……いやいや1番ダメなパターンだろ。って、あのことストメで叶に送ったくせに、我ながらよく言うよ。
でも、とにかくストメ・電話とかは無しじゃね。ちゃんと目の前で伝えないと。
でもなぁ、そのタイミングが分かんねぇんだよな。そう考えると、湯花のやつ花火大会なんて良いシチュエーション選びやがって。どうせならそれに負けず劣らずの場所とタイミングで伝えたいよ。
……でもそんなの待ってる間に、湯花の気持ち変わったらどうする。それだけは嫌だな。絶対に嫌だ! にしても……いつも通りに2人で過ごして、どこでズバッと行けばいいかイマイチ分からない。はぁ、一体どうしよう……
なんて考えていると、
ピロン
メッセージ? ……あっ、勝じゃん! 久しぶりだなぁ。なになに。
【よう海! 久しぶり! もし今日暇だったら、遊び行っても良いか?】
おっと? なんだかんだいって高校入ってから会ってないもんなぁ。それに良い気分転換になるかも! そうと決まれば……
ガチャ
「よー、海。久しぶり!」
「ういっす!」
「おぉ、あれ? 太一も居るじゃん!」
「勝に誘ってもらってさ。俺も海に会いたかったし」
「そかそか」
「海のお姉さんにも久しぶりに会ったなぁ」
「変わってないだろ?」
こんな感じで会話をするのは実に卒業式以来かもしれない。
この2人とは同じバスケ部で苦楽を共にした戦友だ。勝は小学校、太一は中学から付き合いで、同学年の中でも特に仲が良いと思う。
「いやぁ、それにしても久しぶりだ」
「だな。なんか悪いな。俺からも全然ストメとかできなくて」
「気にすんなって、高校生活に慣れるのに必死だろ? それにバスケの公式戦って結構最初の方に固まってるから、遊ぶなら夏休みだろって太一とも話してたんだ」
「そうだぞ? 特に海はなんの知り合いも居ないようなとこ行ったしさ」
「まぁそこはボチボチ上手くやってるよ。湯花も居るしね」
「あっ、確かに湯花も一緒だもんな」
「そっか、そっか。湯花も変わらず?」
「全然変わらないよ」
「ははっ、だろうな」
「あっ、そういえば総体凄かったな」
総体?
「まさか海が翔明実業と戦ってるとは思ってもみなかったよ」
「げっ、お前ら見てたのか」
「まぁ、俺達は早々に2回戦で負けたからな。春季大会も別会場だったし、せめて決勝だけでもってさ」
「そしたらお前スタメンだったろ? 驚いたぞ」
「いやいや、来てたなら声掛けてくれよ」
「だって大一番を前に声なんて掛けられないだろ」
「うんうん、それに終わった後はさらに声掛けられる状態じゃなかったしな」
……はっ! 試合見に来てたって言うことはまさか!
「ちょっと待て、じゃあ最後のところも見たのか?」
「あぁ、もちろん」
「海がシュートはず……」
「ストップ! 掘り返すな、傷をえぐらないでくれ!」
「なんでだよー」
「別に何も言ってないぞ?」
「いいからスト―ップ!」
「変な奴だなぁ」
「全くだ」
なんて話から始まり、お互いの現状や高校生活なんか話していたけど……やっぱ久しぶりに話をすると楽しくて、全然話題が尽きない。もちろん、山形とか谷地と話すのも楽しい。けどそれとはまた違った面白さで、ずっと笑っていた。
「まぁお前ら2人で石白高校のバスケ部強くしろよ」
「無理だって!」
「いや、やってみないと分からないぞ?」
「ふっ、相変わらずだな勝は」
「「はははっ」」
「あっ、相変わらずと言えば……」
「ん?」
「楽しい話ぶった切って悪いんだけど……ちょっと聞いても良いか?」
勝の顔変わったな。なんだろ?
「なんだ?」
「えっと、その……」
「どうしたどうした? ハッキリ言えよ、水臭い」
「悪い。そのー海、お前……叶と別れたのか?」
「おっ、おい。勝っ!」
叶? あぁ、もしかして石白高校行った人達の中で噂にでもなってんのか。まぁその発信源に思い当たる奴が居るんですけどね。あいつら……あいつも確か石白高校だったはずだし。
「いいって太一。別に隠してるつもりはなかったんだ。それに隠す必要もないしな」
「それって……」
「あぁ、叶とは別れたよ」
「マジか?」
「ほっ、本当かよ海?」
「あぁマジだよ」
「なんでだ? その……原因は?」
原因ねぇ。まぁ別にこの2人に隠す必要もないよな? 許可は貰ってるし。それにこいつらには絶対に嘘は付けないよ、友達として。
「それは……」
「マジかよ……」
「しかも9月って、それまでお前1人で抱えて黙ってたのか? 全然そんな素振りもなかったし、全然気が付かなかった。なんかごめんな。そんなこと知らずに……」
「いいって、謝るなよ」
「それにしても話聞いても、色々と飲み込めねぇ」
まぁ、聞いたら誰だってそんな反応だよな。勝はそれこそ小学校の時から叶のこと知ってた訳だし。
「証拠の動画ならあるぞ。見るか?」
「本当に撮ったのか? 俺はいいよっ! てか、そんなマジな顔で嘘つける程お前が器用じゃないって知ってるし」
「俺もいい。苦しいこと話してくれた友達、信じない訳ないだろ」
お前ら……最高かよ。
「にしても田川の野郎っ! 昔からいけ好かない奴だったけど最悪すぎるぞ」
そう言えば、太一は田川と小学校から一緒だったんだよな。中1の時から対田川意識強かったけどさ? しかも好きだった子が、中学入って田川と付き合い始めたって聞いてからは、更に拍車が掛かったっけ。
「男子には普通だったけどそんな噂もあったな。3つの小学校の奴らが入るっていっても人数はそこまで多くはなかったから、広まるのもあっと言う間だった気がする。実際、付き合ってすぐフラれたって女子も何人かはいたよな」
「そうだ! あいつのせいで寧々ちゃんは男恐怖症になって……それ以来、話すことさえできなくなったんだぞ! ふざけやがって!」
「まぁまぁ、落ち着けって太一」
「あっ、あぁごめん。でも知ってるか? あいつ自慢げに
「確かにこの辺じゃ抜群に上手かったけど、それでも4軍か。さすが全国に名を轟かせてる高校はレベルが違うな」
皇仙学院ねぇ、そのサッカー部の強さは全国トップレベルなんだよな。正直知名度でいけば翔明実業よりも遥かに知られてる。まぁ悔しいがあいつはサッカーだけは上手かったし、中学の校長とかも結構期待してたような……
「それって確かなのか?」
「勿論、いっつも木村に愚痴ストメ来るってよ? 実際に俺も見たし」
木村って中学の時サッカー部だったな。だとしたら本当かもしれない。
田川……あの時は叶に対する絶望感で一杯で、ある意味眼中になかった。でも、こうして冷静に考えてみると、お前がしたことは最低だ。叶より最低だ。
遠くへ行ったお前に今更何か言うとか、直接会って恨み晴らすなんてことは考えてない。それに今となっちゃ、お前の存在自体消えかけてるしな。
けど、お前のせいでどうしようもないくらい傷ついた奴らが居たって事実を……忘れるなよ? そしてできることなら……
「でも、そのサッカーで高校行ったんなら、安易に辞められないしな。こりゃ見事に……なぁ海」
「……人の不幸を喜ぶなんて不謹慎だけど、今日くらいは言っても良いだろ?」
その報いを受け続けろ
「「ざまぁみやがれ!」」
「「はははっ」」
「はぁ。でもお前から本当のこと聞けて良かったよ」
「美月のやつ結構騒いでてさ? 今は大人しいけど」
あぁ、やっぱあいつか。でも今大人しいってことは、叶になんか言われたとしか思えないね。
「けど……お互い納得したんだろ? 海も、叶も」
「あぁ、そうだよ。お互いにな」
「それ聞いてスッキリだわ」
「なんか悪いな。俺のせいで2人の楽しい高校生活を邪魔しちゃって」
「なんで謝るんだよ。むしろ悪いのは南と……」
「田川の野郎だろ? 海のせいじゃないし、そもそも俺達美月には負けねぇよ」
ははっ、そういえば太一は南とも同じ小学校だったんだよな。いやぁ、普段は優しいのに嫌いな奴にはとことん毒舌。いやはや、そのギャップがおもしろいとこでもあるんだけどね?
「とにかくこっちのことは気にすんな。お前は前だけ見て、翔明実業に勝てよ」
「そうだぞ。俺達の分もウィンターカップに出て爆発してくれ」
「あぁ、ありがとうな? 2人共」
あぁ、なんか久しぶりにあいつらと話したら楽しかったなぁ。それに、
『信じてる』
『まっすぐ前だけ見ろ』
その言葉が、胸に響いて……素直に嬉しい。
それに、尚更やる気も出た。明日からの部活も……頑張ろっ!
……部活? 部活……ヤバイぞ。
湯花に俺の気持ち、どうやって伝えよう……
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