第24話 それは突然やって来た

 



 春季大会、南襲来、そして皆でバカ騒ぎ。

 そんなとんでもなく濃い1日を経て、俺と湯花の関係は……


「よっし、19本目ー! 次決めたら今日は私の勝ちだぁ」

「うっ、外せ外せ外せー!」


 シュパ


「やった! 久しぶりに勝ったぁ」

「くそぉー」


 確実に、いつも通りの普通に戻りつつあった。


「ふっふっふ。じゃあおごってもらおうかな? コーラを!」

「はいはい」


 部活が休みでもないのに、体育館に響き渡る声俺達の声。その理由は簡単、俺達はちょっと前から居残り練習を始めた。


「いやぁ、にしても海スリーポイント上手すぎじゃない? 居残り練始めてからまだ2回しか勝ててないよ」

「そうか? でも成功率はそこまで高くないぞ? それに翔明実業の8番に比べると……」

「あぁ、確かにあの人は異常だったよね」


 知っての通り、黒前高校バスケ部は原則朝錬・居残り練習を誰もしていない。というより、監督から控えるように言われている。

 短時間で質の高い練習ができれば、それ以外の練習は集中力が切れたただの遊び。そしてその行動はせっかく培ったものを削いでしまう。監督曰くそういう理論らしい。

 でも、俺と湯花はどうしても居残り練習をしたかった。というより……しなきゃいけないと思った。まぁ湯花と一緒にバスケサークル行ったのが原因なんだけどね?


 2人でボールを片付けながら、しみじみ思い出す。

 あの日湯花は、心底楽しそうに練習に参加してた。そんな姿に俺もちょっと嬉しかったし、なによりも興奮したのが透也さんと一緒にプレーできたこと。怪我でブランクがあるとは思えないそのドリブル・パス・シュート・リバウンド。目の当たりにしたその全てに魅了されたけど、それと同時に……自分の力不足を痛感した。


 春季大会だって、俺がもっと上手くて先輩達のサポートができていたら、もっと得点を決められていたら……翔明実業に勝てていたかもしれない。それに高校総体までの期間は意外と短くて1ヵ月弱。とにかく時間が無いと思った。

 そしたらさ? 俺と同じこと考えたやつがもう1人。もちろんそれは湯花だった。サークルでの練習終わって、柔軟体操してる時ぼそっと俺に言ったんだ、


『ねぇ海? 私、このままだと先輩達の力になれない気がする。もっと練習しないと……』


 そんな時つくづく思った。確かに中学の時から、バスケのことに関しては……いつも考えが一致してたなぁって。だからさ?


『じゃあ、居残り練するか?』


 そう言ったのが始まり。そんで2人で監督のとこ行って、


『『居残り練習も全力で集中するのでお願いします!』』


 なんてお願いしてさ……なんとか許可貰ったっけ。


「でも、俺がこの短期間で先輩達の力になれることといったら……スリーポイントしか思いつかない」

「だね。私もそう思う。ドリブルもジャンプシュートも先輩達には遠く及ばない。けど飛び道具なら……」

「「決定的な武器になる」」


 それを磨くために俺と湯花は部活が終わった後、先に20本スリーポイント決めたら勝ち! という居残り練習をしている。

 俺は10本で良いと思ったんだけど、これに関しては湯花がどうしてもってことでその本数。じゃんけんで先行を決め、外したら交代でもちろん罰ゲームも有り。その方が余計集中できるしね?


 ということで、今日は俺の負け。なので罰ゲーム……




「プハー! やっぱ練習後のコーラは最高だね!」


 ジュースを2本おごる!


「いやいや良い飲みっぷりだねぇ」


 毎回思うけど一呼吸でどんだけ飲んでんだ? ペットボトルが350mlになったからって、ヤバいだろ。750mlのやつでも速攻で無くなりそうだな。 


「ふぅー、ご馳走様!」


 ……有り得ないだろ? やつの胃袋は鋼鉄か?


 そんなやり取りをしながら、到着した列車に乗り込む。

 居残り練習を始めた日から、帰りはいつもより1本遅い列車。いつもの列車でさえ時間も時間で乗客は少ないから、この時間帯の列車はほぼ貸し切り状態と言ってもいい。


 それにしても、帰る時間結構遅くなるよな? それに湯花の家は駅からも結構時間掛かる場所だし……時間とか連日の疲労がさすがに気になる。


「なぁ湯花」

「んー?」


「居残り練習欠かさずやってるけど、時間とかその……大丈夫か?」

「おっ、なになに? 夜道とか気にしてくれてるの?」


 まぁ、こんな田舎じゃそんな事件はないと思うけど……言われてみればその可能性もゼロじゃないよな?


「そりゃ通い慣れた道だろうけど……心配はするだろ?」

「えっ……」


 えっ? ってなんだよ。えっ? って!


「なんだ? 心配しちゃダメなのか?」

「いっ、いやぁ、そんなことないよ! でも、ありがとう。全然大丈夫だよ?」


「本当か? それに居残り練習だって俺が言い出したことだし、無理して付き合ってないか?」

「そんなことないよ。私はちゃんと自分自身の為にと思って残ってるよ? それに……」


「ん?」

「海と一緒なら……毎日だって居残りできるよ」


 おっ、ライバル宣言? 張り合えるからこそ部活のない日曜日でも挑戦受付中ってか? 確かにお互いそういう気持ちある気がする。


「おっ、本当か? じゃあ遠慮しないぞ?」

「ふふっ、望むところ」


 こんな感じで、部活も高校生活も楽しくて、自分自身めちゃくちゃ充実した毎日を送っていたんだ。

 けどそれは次の日、湯花達との昼食会が終わった後に……起こった。



 ――――――――――――



 教室に戻り、席に着くなり、


「ふぅ、今日も楽しかったぁ」


 少しニヤニヤしながら谷地が話し始める。


「まぁな。けど、今日は水森さん居なかったから物足りなかったんじゃないか?」

「そうなんだよなぁ。でも学級委員の集まりなら仕方ないよ」


「だな。俺なら絶対引き受けたくない役職だ」

「でもそれを快く引き受ける水森さん……あの風貌そのままにやっぱりいいなぁ」


「おい山形、この明らかに変な顔してるやつどうにかしてくれ」

「……」


 ん? あれ? どうしたんだ? いつもの山形なら速攻でツッコむはずなのに。しかも今日は間野さんもいて、終始テンション高めだったじゃねぇか。


「なぁ雨宮?」

「ん?」


 さっきまでのテンションとはまるで違う山形の声。そんな声に、視線を向けてみて見ると、椅子に座るその表情はどこか硬いというか真剣というか……とにかく今までに見たことのない山形の姿で間違いはなかった。

 おいおい、どうしたんだ? なんかあったのか? カミングアウトか?


 そんな緊張感が辺りを包み込む中、山形はゆっくりと口を開いた。



「俺……間野さんに告白する!」


 ん? こっ、告白? あぁ、なんだ。告白ね? 


 …………



「「えぇ!?」」



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