第14話 これも青春
「ねぇ、あっちにリンゴ飴あるよ?」
「本当だぁ」
「間野さん!」
「水森さん!」
「「俺がおごるよ!」」
情緒あふれる城跡と至る所に咲き誇る桜。そしてその間を行き交うたくさんの人達に、聞こえてくる楽しそうな声。
「俺が……」
「いやいや俺が……」
いやぁ、やっぱいつ来ても素晴らしいなぁ、後黒公園のさくらまつりは。この景色を見る度に風情の大切さが身に染み……
「だから俺が……」
「いやいや……」
あの、ちょっと静かにしてくれます!?
「お前ら一体……」
「皆楽しそうだねぇ」
そんな山形達を眺める湯花は、それこそいつもの楽しそうな表情をしていた。
まぁそもそも、皆でさくらまつりに行こうって言い出したのも、他ならぬ湯花だったしね。それに、
「本当凄いなぁ」
「やっぱり綺麗」
とりあえず仲のいい友達が増えるってのは良い事だ。
同じクラスでバスケ部に入ってる白波と、湯花と同じクラスでバスケ部マネージャーの多田さん。他のバスケ部の皆は都合が悪くて来れなかったけど、まぁ人数的には丁度良かった気がする。
実際この2人も、あの合コン風昼食会にちょいちょい参加してるし、全員が初めましてじゃない。とはいっても、
「その多田さんはさくらまつりには毎年?」
「えっ? あっ、うん。そうかな」
まだ会話はたどたどしいけどね? というより、この時期だと普通はまだあんな感じだろ?
「だから俺におごらせろよ? 大体お前そんなキャラじゃないだろ?」
「何言ってんだよ。これこそまさに俺の仕事じゃないか?」
「ふふっ」
「はいはい、お店の人困ってるよー?」
俺達が異常なだけじゃね?
「ねぇうみちゃん」
「ん? なんだ?」
「湯花はあっちのイチゴ飴が食べたいな?」
「ほう、じゃあ行って来い」
「じゃあお金」
「なんで俺がおごるんだよ」
「いやぁ、前の2人見てたらそういう流れかなって」
「そんな流れ俺には全く感じない」
「……とうっ!」
うぉ! あいつポケットの中から財布持って行きやがった! なんだあの手早さ、まさか本業じゃないだろうな?
「おっ、おい!」
「ははっ、ホント仲良いよな? お前ら」
「さすが同じ中学校」
「いやいやただの腐れ縁だって、実際3年間あんなのに付き合わされるって地獄だよ」
「じゃあ、あと3年も地獄だなっ」
「でも湯花ちゃん、とっても明るくて話しやすい子だよね? こうして誘ってもらえたのも嬉しかった」
甘いなぞ白波、多田さん。おそらくそう思っていられるのも今のうちだぞ?
「今だけだって、そのうち……」
「あっ、大判焼き下さい。えーっと、とりあえず全種類で」
っておい! なに買ってんの? イチゴ飴じゃないのか? しかも人の財布の中身見て、迷うことなく注文してんじゃないよ! ほら見ろ? 君達もいずれこんな風になるんだよ。だから……奴には気を付けろ!
「ちょっと待てぇぇ!」
「うみちゃんありがとー」
「んー、これおいしい」
「本当? ちょっと食べさせてすずちゃん」
「じゃあ湯花ちゃん、私達も半分っこしよ?」
「雨宮め、いいとこ総取りかよ! モグモグ」
「これだからリア充は嫌いなんだ! もぐもぐ」
「いいなぁ、半分っこ」
なぁ白波、あれは女子がやってるからあんなに微笑ましい光景なんだからな? 間違っても男どもでやろうとは思うなよ? あとお前ら、文句あるなら食うんじゃないよ。俺だって半強制的に恐喝じみたことされてんだぞ。おまけに、
『今度なんか奢ってあげるからさぁ?』
なんて清々しい程の嘘も一緒にな。
そんなことを思いながら、出店の続く坂をゆっくり下りて行くと、大きく拓けた広場に到着する。そこには出店の他に巨大迷路やボール当て、極めつけはド真ん中に堂々と陣取るお化け屋敷。そんなアトラクション系のお店が軒を連ねる。
「おっ、お化け屋敷毎年あるよな? なかなかの怖さだぜ?」
「いいねぇ、行こうぜ皆」
なんだそのテンプレートのような誘い方。下心丸見えじゃねぇか。
「怖いの苦手だなぁ」
「大丈夫だよ間野さん。皆で行けば怖くないよ」
「多田さんは大丈夫?」
「平気だとは思うけど、ここのお化け屋敷には入った事ないからなぁ。どのくらいの怖さなのか……」
「皆で行けば大丈夫だって、なぁ白波」
「うぅ……怖いなぁ」
なんか1人女が増えたぞ? 白波、その顔でそのセリフはある意味お化け屋敷より怖いからな。
「じゃあさ、皆で突撃しよー!」
「だよな?」
「それじゃ行こうぜ?」
「みっ、皆と一緒なら……」
あぁ湯花、お前の一言でお化け屋敷決定したぞ? てかお前はこれ系大丈夫なのか?
「うみちゃんも良いでしょ?」
「俺は良いけど、お前は大丈夫なのか?」
「ふっふっふ、夏合宿お忘れか?」
くっ、あの忌々しき出来事を思い出させる気か?
「忘れた」
「まぁまぁ、あの時うみちゃんが来るまで教室で待機してた私を侮るなかれ」
あっ……そう言うこと? でも確かに、あの状況で誰か来るまで待機できる時点で相当ヤバいよな?
「……お化け屋敷よりお前の方が怖いよ」
「ふふふ」
そんなこんなで、お化け屋敷に入る事になった俺達は、早速その真ん前まで足を進めた。
おっ山形の奴、受付で上手い具合に間野さんの隣キープしてやがる。その後ろには谷地と水森さんか……
なんだかんだであいつら意外とやるなぁ。中に入る時は2人1組がルールらしいし、そうなると……
「大丈夫かなぁ」
「ちょっと白波君? しっかりしてよ?」
性別逆転してんじゃねぇか。
「ひぃぃ!」
「ただの作り物だからっ!」
本当に大丈夫か? 白波。入り口前の段階だぞ? でもまぁ、中には皆も居る事だし合流して進めるから何とかなるか。あとは俺達も……ってあれ?
受付を済ませようと、横に居るはずの湯花の方へ顔を向けたけど、なぜかそこにその姿はない。
はぁ? 何処行きやがった? もう中に入ったわけないしな。一体……って居た!
急いで辺りを見渡すと、受付から少し離れた場所に湯花は居た。けどその姿は、明らかに違う方向の何かを見ているのが丸わかりで、正直怪しくて仕方がない。
おいおい、何やってんだよ。あいつ……
「おい、湯花なに……」
「シッ!」
話し掛ける間もなく、短い言葉のあとに人さし指を口の前に当てる湯花。そして、その指をまるであっち見ろと言わんばかりに同じ方向へ何度も指しだした。
はぁ? なんかしたの……はっ!
湯花のジェスチャーに指さす方向。その意味を理解するのにさほど時間は掛らなかった。
あれは……晴下先輩? それと女の人!?
「おい湯花、あれって晴下先輩だよな?」
「間違いないよ」
「んで? あの隣の美人さんは?」
「あの人は2年生の
なっ、なんだと。そういえば前に山形とかがその名前チラっと言ってたな? どうせ誇大表現だと思ってたけど……遠目からでもわかる。かなり美人だ。
「でもさ、なんであの2人が? ……まさか!」
「私もそのまさかだと思ってる。でもこのままじゃ確証は得られない」
「確かに」
「でもさうみちゃん? 晴下先輩と磐上先輩、もしこの2人が付き合ってるとしたら? こりゃ世紀のビッグカップルだよ?」
「だな。それを確認できればだけど」
なんだろ……一気にテンション上がって来たんですけど?
「ねぇうみちゃん、ちょっと聞きたい事あるんだけど?」
「なんだ?」
「うみちゃん、ゴシップ記事は好きかな?」
ゴシップ記事? ふっふっふ。湯花、そんなの……
「大好物に決まってんだろ?」
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