第3話 宮原 湯花
「えぇ? 良いじゃん? うみちゃんの方が可愛いし」
「お前の可愛いを全面的に押し付けるんじゃないよ」
「別に押し付けてはないよー?」
「はぁ、相変わらずまったくブレないよなぁ」
何だかんだと口の達者なこいつの名前は宮原湯花。最悪な事に同じ
「そんでー?」
「ん?」
「ん? じゃないでしょ。なんかあった?」
なんかあった? って、色々有り過ぎなんだよな。とりあえずお前と一緒に登校するのだけは絶対に嫌だって確信したのは間違いない。
「なにもないよ」
「へぇー」
うっ。何だよそのあからさまに信用してないって顔は……って
「よっと」
「おっ、おい」
普通に隣に座るなっ! 他の席ガッツリ空いてるだろ。
「そんで?」
ジワジワ近付いてくんなって! 近い近いっ!
「だからなんでもないって」
「はぁ、あのさ? うみちゃん自分で思ってる以上に嘘付くの下手だぞ?」
「はっ、はぁ?」
「顔でバレバレ、それに……」
なんだよ……
「さっき叶ちゃんから、様子伺いの依頼が来たのだよ?」
っ!!
「うみちゃんどんな様子? って」
あいつ……スマホ繋がらなくなったからって、宮原に連絡したのか?
「高校離れて心配するのは分かるけど、うみちゃんって普通にコミュ力高い方じゃん? それなのにいちいち私に様子見させるって……おかしいでしょ?」
うっ、出たよこいつの勘の良さ。お茶らけてるようで、いきなり鋭いこと言うんだよな。
「それで? なんかあった?」
はぁ……ったく、こいつには勝てないな。下手に嘘言っても納得するまで付きまとわれそうだしな。仕方ない素直に言うか。
「今朝……叶と別れた」
「……別れたぁ!?」
ばっ、馬鹿野郎!
「シーっ! 声でかいんだよっ!」
「はっ! ごめんごめん」
頼むぞ? 公共の場で俺を辱めないでくれ。ふぅ、まだ乗客が少なくて良かった。
「でっ、でもなんで? 理由は? 理由は!?」
理由……か。そりゃ1つしかない。けど、これを口に出したら色々とマズくないか? こいつベラベラ拡散しないだろうな? 出来れば穏便に別れたいから泥沼の様な流れは勘弁なんだけど……
「言うなよ?」
「わかった」
「絶対に言うなよ?」
「大丈夫!」
「フリじゃないからな?」
「わーかってるよ! それくらい私でも理解してるって」
約束したぞ? 破ったら恨むからな? 絶対恨むからな? ……よし。
「叶、浮気してた」
「浮気っ!?」
ばっ、馬鹿っ!
「声デカいって言ってんだろ!」
「ごっ、ごめんごめん」
周りは……大丈夫。こっち見てないな? ったくホント頼むぞ?
「でっ、でもさ? 結構信じられないんだけど? 本当なの?」
「あぁ」
「その……相手って
「田川だ」
「まっ、マジかい」
正直その名前を口にするのも嫌なんですけどね?
「でもさ? それって本当に本当? 現場見たとか?」
「あぁ見た」
「見間違いとかじゃ?」
見間違いか……そうだったらどれだけ良かったんだろうな。俺だってあの時必死でそう願ったよ。だからさ? だから、
震える手で……スマホを向けたんだ。
「見間違いだったら良かった。でも、何回見てもあれは叶だった」
「何回見ても? まさかうみちゃん!?」
「動画……残ってる」
「あぁ、マジかい」
何回、何十回、何百回と俺はそれを眺めた。どれだけ見間違いだと思いたくて、再生しただろう。けど、その度に突き付けられた現実。
でも、もしかしたら良い機会かもしれない。誰にも見せたことのない、この
「なぁ、丁度良いから見てくれよ宮原」
「はっ、はぁ?」
「誰にも言えなかった。誰にも見せれなかった。聞き出したのは宮原だぞ? だから……責任取って見てくれ。そんで、答えてくれ」
見てくれよ。そして、答えてくれよ。映ってるのが叶だってさ。
「わっ、分かった」
その宮原の言葉を聞くと、俺は鞄からスマホを取り出して電源を入れる。そして画面に表示される着信履歴と留守電のマークから目を逸らして、データボックスをタップする。電源が入っていない事で諦めたのか、操作中に連絡が来ないのは助かった。おかげでスムーズにそのフォルダの場所まで辿り着けたんだから。
そして俺は……1つのデータをタップして、そっとスマホを宮原に渡した。
どうかな? どうなんだ宮原?
これは叶か? 見間違いか?
何百回も見た俺の目は……おかしいのか?
なぁ、教えてくれ。
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