第27話 親愛なるものへ-27
通学の道々、美生は悩んでいた。いや、今日は一日考え事をして惚けていた。昨日和枝に言われた言葉がずっと引っ掛かっていた。まさか自分に店を譲ると言い出すとは思ってもみなかった。美生にとっては、精々中学卒業までの糊口として、あわよくば高校卒業までのバイトとしてやれればいいと思っていた。後はどこか就職して自立することを考えていた。もちろん、今の仕事が嫌いな訳ではなかった。むしろ、自分に合ってるようにすら思える。しかし、あまりにも善意につけ込んでいるようにすら思えてしまう。どうしたものだろうかと思いながら、相談相手もなくふらふらとしていた。
高石にでも相談しようかと思って、店の前まで帰ってくると近くの商店街の人が何人も集まっていた。どうしたんですか、と声を掛けると真剣な顔が振り返って、美生を認めるとまくし立てるように話し始めた。
「おばあちゃんが、倒れたよ」
え、と一瞬気が遠くなった気分でいた美生はすぐ我に戻って、
「それで!どうしたの!」と叫んだ。
「さっき救急車が来て運ばれていったよ」
美生は病院の名前を聞くとすぐに駆け出していた。
病室で和枝は点滴を受けながら横たわっていた。美生は愕然としたまま立ち尽くしてしまった。自分がそこまで和枝を追い込んだのかと思っていた。看護婦に囁かれて和枝は目を開いた。
「おや、美生ちゃんかい。みっともないったら、ありゃしない。急に眩暈がしてね。もう歳だね。ごめんね、店ほっちらかしちまって」
「んん、それより大丈夫?」
「ん、もうだいぶ気分はよくなったよ。すぐに帰れるよ」
美生の後ろに看護婦がやってきて、美生を呼んだ。美生が廊下に連れ出されると、看護婦はゆっくりと告げた。
「おばあさん、だいぶ疲れてらっしゃるようね。それでね、お医者様の言うことだと、しばらく入院した方がいいということなんだけど」
「ええ、そうして下さい」
美生は深々と頭を下げるとまた病室に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます