第26話 親愛なるものへ-26
*
店は順調だった。高石らの紹介でやってくる学生以外にも、上岡駅を利用する高校生も下校時に来るようになって、夕方はほぼ満杯だった。美生一人では手伝いもままならず、小山や増田にも手伝ってもらうこともあった。おかげで、一ヵ月の売り上げはすこぶる良かった。和枝は、美生に下宿代を差し引いた分と言いながら大金を給料としてくれた。
「こんなに?」
「あぁ。あたしは、もう歳だから、大金持ってても仕方ないからね」
「でも…」
「何言ってるんだい。この店の経営者はあんたみたいなもんじゃないか」
「でも、あたしまだ中学生だから」
「いいって、なんとでもなるんだよ、この店の経営は」
「はぁ。ありがたくちょうだいします」
「それより、あんたに相談があるんだけどね」
「はい?」
「美生ちゃん。あんた、この店、貰ってくれない?」
「はい?」
「いや、いますぐって訳じゃないけど、いずれあんたに譲ろうかと思ってるんだよ」
「あ、でも、息子さんが」
「あの子はあの子の生活があるんだ。いまさら、この店貰ってもらってもしょうがないんだよ。あたしは、あんたにこの店を譲りたいんだ」
「は、はぁ?」
「まぁ、すぐっていう訳じゃないから。そうだね、あんたが学校卒業したらってことでどうだろ。もし、あたしが死んでも、あんたの名義で遺言を残しておくよ」
「そんな、おばあちゃん、縁起でもないこと言わないで」
「いやいや、もう決めたんだ。ここ一ヵ月ほど店をやってて楽しいよ。やっぱり。疲れるけどね。あんたの言う通りにして本当に良かったよ」
しみじみとそう言われて美生は、恐縮するしかなかった。
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