第23話 親愛なるものへ-23
高く上がった太陽の穏やかな日差しが暑いくらいに思えた。しばらく雨が降っていないので妙に埃っぽい。車の排気ガスもうっとおしく感じられる。
美生はそんな中じっと立っていた。立って花輪を見上げていた。祝開店と大きく記された花輪は、小さな間口を覆いかぶすように立っている。それでも顔はにやけずにいられなかった。
「やっほー、ミキちゃん」
はっと気がつくと小山が抱きついてきた。振りかえると、高石も増田も田代も、それから美生の知らない男子もいた。
「あ、来てくれたの」
「もち。開店祝いじゃない」
「ありがとうね」
美生は中に入って和枝を呼んだ。
「おばあちゃん、そろそろ時間だよ」
十時開店と同時に、高石らが中に入った。
「いらっしゃい。よくきてくれたね」
和枝の歓迎の言葉にピースサインをしながら、五人はメニューを覗き込んだ。わいわい騒いでいる姿を見て和枝が嬉しそうだと、美生には思えた。
「きれいになったね」
「へへ、なかなかでしょ」
「ミキちゃんのセンス?」
「うん、あたしが決めたの」
「かわいいし、きっと流行るよ」
「学校帰りの学生にターゲットを絞ったの」
「いい、ここ。みんなにも宣伝しなくちゃ」
「お願いね。田代君も甘いもの大丈夫?」
「あぁ、オレ、好きだよ。あ、こいつ伊達。友達」
「あたし、立花美生。よろしくね」
「よろしく」
「そうか、ミキちゃんって立花っていうんだ」
「そう。知らなかった?」
「ずっとミキちゃんって呼んでたから、苗字知らなかった」
「あたしも」
「あらためましてよろしく。立花美生です」
「よろしくお願いします」
「さて、お客さん。ご注文は?」
和枝はいつになく元気で美生は言われるままに動いていればよかった。日曜でもあり、開店祝いということもあって、商店街の人も大勢来てくれて大繁盛だった。夕方まで結構忙しく動き回った美生はくたびれてへとへとだった。しかし、和枝はまだ細々と動いている。美生は思わず感心してしまった。
「おばあちゃん、元気ねぇ」
「何言ってんの。若いくせに、このくらいで」
和枝が若返ったように美生には思えた。美生がじっと見つめていることに気づかないまま和枝は美生に風呂に入るように言った。美生は小さい子供のように素直に返事した。
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