第19話 親愛なるものへ-19
*
終業のチャイムが鳴って、校内が賑やかになった。美生はそんな様子を伺い、まだかと校門の前で待っていた。掃除の時間も終わり、やがて下校していく生徒も増えてきた。制服の生徒の群の中では私服で校門に立っている美生は目立つ存在だった。しかし見られることに美生は委細気に掛けず、じっと校内を伺っていた。と、一人の少女の姿を見つけるともたれかけていた背を離して相手が来るのを待った。そして、小さく手を振った。その少女は驚くように美生を見つけると駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
「やっほー、おひさ」
「どこ行ってたの?!お母さん、心配してて、警察にも届けたのに」
「あっそぉ」
「あっそお、って、そんな言い方」
「いいのよ、あいつはあんたのことだけが可愛いんだから。あたしのことはただのメンツ。いなけりゃカッコがつかないから、慌ててるだけ」
「そんな……」
「それより理奈は元気にしてた?」
「あたしも心配してたんだから」
理奈は涙で声を詰まらせながら美生に寄り添った。美生は抱きかかえるように理奈を支え、
「ま、あたしはあんたとちがって図太いから、大丈夫」
「でも、もう帰ってこないかと思ってた」
「そのつもりだったんだけどね」
「けど?」
「今度、ここの学校に編入するかもしれないんだ」
「本当?」
「今日書類出してね、来週試験があるんだ」
「でも、家出中でそんなことできるの?」
「たぶん、学校の方から家に連絡は行くんだろうと思うけど。そうでなきゃ、編入できる訳ないもんね」
「じゃあ、帰ってくるの?」
「帰らない」
「どうして?」
「どうしてって、当然じゃない。あんな家」
「でも、本当に心配してたよ」
「お父さんは?」
「……帰ってこない」
「でしょ。お母さんは、メンツだけ。あたしがいるときもそうじゃない。この学校に通ってるあんたばっかり可愛がって、あたしがどんな扱いだったか」
「でも、お母さん、ずっと心配してたよ。何回も警察に連絡して」
「帰んないよ。あたし、養子にしてもらおうかと思ってるの」
「え?」
「ここの学校に受かって、身元がばれて連れ戻されるくらいなら、養子にもらってもらおうかと思ってるの」
「そんな……」
「心配しなくても、あんたとは姉妹だから。あのバカ親どもと縁を切るだけ」
「そんなに嫌いなの?」
「あんたにあんな連中押しつけるみたいで悪いけど、たぶん、あたしが出ていけば、お父さんも帰ってくるよ。それで帰って来ないなら、あたしが殺しに行ってやる」
「お姉ちゃん……」
「もう帰るわ。来週の試験に向けてちょっとは勉強しなきゃいけないからね」
「お姉ちゃん、いまどこにいるの?」
「受かったら教える」
美生はじゃあねと手を振りながら、引き止めようとする理奈を振り払って駆けて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます