第18話 親愛なるものへ-18

 美生は高石らと並びながら和枝に宝くじを差し出した。和枝は驚きながら眼鏡を取り出してそれを眺めた。

「これ、本当に当たってるのかい?」

「ちゃんと銀行の人に確認してもらったから間違いないよ」

「で、でも、こんな大金、どうするの」

「吉田さんにもらってもらおうかと」

「ばかを言うもんじゃないよ。こんな大金、あんたが大事に取っておきなさい」

「でも、あたし未成年だからもらえないんだよ」

「そんな……もったいない。大丈夫。あたしにまかせておきなさい。あんたの名義で通帳作ってあげるから。あぁ、判子がいるわね」

「すごいね、ミキちゃん。壱千万円だって?これで、なんでも買えるじゃない」

小山の台詞に微笑みながら応えると、

「それより、ここの改装したいな」と言った。その言葉を聞いて和枝は驚いた。

「馬鹿なことを言って」

「本気だよ。ここ、改装して店やろうよ」

「そんな、あたし独りじゃあ、できないよ」

「大丈夫、あたしが手伝うし、それとこの友達も」

「そんな…。いいよ、お金がもったいないよ」

「おばあちゃん、お金なんて寝かしておいてもなんの役にも立たないもんだよ。使ってやてようやく価値があるんじゃないの」

「だけどね」

「何も全額改装費に当てようっていう訳でもないんだから。少しでいいんだよ、この店をうまくやっていくために、少し使おうって言ってるんじゃない」

「でもねぇ、あたしも歳だから、そんなに長く続けられる訳でもないし」

「あたしが続けてあげるよ。任せて」

「でもねぇ……」

「このままだと、独りで淋しいでしょ。店を開いて、いろんな人に来てもらって話して、楽しんで、少しの儲けでもあればそれでいいじゃない」

「でも、美生ちゃんはそれでいいのかい?」

「あたしは、自分が働ける歳になるまではここで働いて、社会っていうのを勉強するんだ。学校なんて行きたいなんて思わない」

「でも、学校は行かなきゃ駄目だよ」

「ん、それは、なるべくそうする。その代わりに、ここで働かせて」

「ぅん、仕方ないね」

「じゃあOK?」

「あぁ、好きにおし」

 やったぁ、と小躍りする美生たちをただ楽しそうに和枝は見ていた。


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