第20話 親愛なるものへ-20

 筆記試験が案外簡単で美生は拍子抜けした気分だった。その後の面接もこの間の緑川先生がおらず見知らぬ先生ばかりだったので、少し緊張はしたが、特に問題もなく終わった。その後、適性試験を待って和枝と一緒に控室で待っていると、緑川先生が呼びにきた。廊下を移動していると、緑川先生が少し美生の様子を伺って笑った。

「どうしたんですか?あたし、どっか変ですか?」

「随分緊張してるな、と思っただけ」

「だって、適性試験なんて、どんなことするのか想像もつかないから」

「もう、始まっているのよ」

「え?」

「それより、もう気づいてるの。こっちはあなたのことを調べ尽くしているってこと」

「ええ。そうじゃなきゃ、家出少女を編入なんてさせないでしょう」

「頭がいいわね。妹さんがいるのね、ここに」

「ええ、ホンットにいい妹で、あの子にだけは申し訳ないと思ってます」

「家出のこと?」

「うん」

そこまで話すと園長室だった。

「さぁ、お入りなさい」

「ここで、試験するんですか?」

「ええ、緊張する?」

「まぁ」

「大丈夫よ、あなたなら」

「そうですか」

「さぁ」と促されてノックをした。中から返事がしてドアを開いた。入る瞬間、緑川先生がウインクをしたのがはっきりと見えた。

 「失礼します」と言って中に入るとそこには、さっき面接で見た園長先生だけがいた。しずしずと前に出てお辞儀をした。園長先生は少し微笑むと、

「おめでとう。合格だ」と言った。美生は一瞬時間が停止したような錯覚を覚えた。

「え、でも、適性試験は?」

「あぁ、それは全部済んでいる」

「え、でも、いつ?」

「全部だよ。緑川先生が君の家に行ったときからずっと。全部の君の態度が適性を判断する材料になっているんだ。筆記試験の監督も面接官も、緑川先生も全部の先生が問題なしと判断した。合格だ」

「は?」

美生は礼儀も忘れて口を大きく開けたままなのに気づいて慌てて取り繕った。顔を赤く染めながら、

「じゃあ、この学校に入れるんですか?」と訊ねた。

「ああ、仮編入だけど。君が望んで努力すれば、正規の編入に変更もできる。それは、また後で考えればいい」

園長は穏やかな口調で話した。

「ただ、我々は、家庭の問題までは立ち入れない。それは、わかってほしい。君の家庭の問題は君自身が解決しなければならない。それを解決するまでは、正規の編入は認められない」

「はい」

「いい返事だ。よくわかっているようだ。なるほど、緑川先生のいう通り、聡明な子のようだ」

聡明という言葉に抵抗を感じながら、

「覚悟は決めてます」と言い切った。

「よろしい、制服と書類、教科書を用意しておいた。明日から来れるね」

「はい」

大きな声で応えた美生に一層園長先生の口の端が緩んだ。

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