第12話 親愛なるものへ-12

 食事の時、美生は封筒を差し出した。

「おばあちゃん、これ」

「なんだい、それ」

「ん、下宿代」

「なんだい、そんなもの、いいんだよ」

「だけど、もう五日も世話になってるし、少ないけど取っておいてよ」

「いいよ、大事なお金なんだろ」

「でも、ここで世話になってることの方がありがたいからね」

「家から持ってきたのかい?」

「んん、バイト」

「バイトなんてしてたのかい?」

「まぁ、ちょこちょこと」

「……じゃあ、預からせてもらうよ。あんたが、出ていくときまで。その時には返すから」

「いえいえ、そんなこと気にしなくてもいいんですよ。使ってください」

「そんなことできる訳ないでしょ」

「それより、ちょっと相談なんですけど」

「なんだい?」

「この店、やんないんですか?」

「店?もう何年もやってないからね、だいぶガタがきてるし、改装も必要だからね、できないんだよ」

「改装…」

「そんなお金はないしね」

「お金……か」

「どうして急にそんなこと言い出したんだい?」

「いやぁ、友達がバイトするくらいならこの店やったら、って言ったもので」

「あぁ、そうかい」

和枝は箸を置いて美生を見つめた。

「それより、あんた、学校に行く気はないのかい?」

「学校?」

「何年も浮浪者やってた訳でもないんだろ。今ならまだ学校に戻れるんじゃないのかい?」

「まぁ、そうかもしれないけど」

「いずれ帰るつもりでいるのかもしれないけど、その時だともう遅いかもしれないんだよ」

「はぁ」

「生活の面倒くらい見てやるから、学校に行きな」

「でも…いいんです。それより、もっとお金を稼ぎたいんです。独りでも生きていけるように」

「何を言ってるんだろうね、この子は。とにかく学校に行きなさい」

「はぁ」

美生は和枝の勢いにただ圧倒されて生返事を返すだけだった。

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