第10話 親愛なるものへ-10
美生が店を掃除していると、扉をノックする音が聞こえた。返事をして開けようとすると、扉は開いて小山が顔を覗かせた。
「こんにちは。いま、いいですか?」
「はいはい、歓迎します」
美生の答えに、小山が後ろに声を掛け、高石らが入ってきた。その中に男子もいた。
「どうしたの?」
「ちょっと、田代が挨拶したいって言うからさ」
背の高い男が小さく頭を下げて、
「こんちは、田代っていいます。よろしく」
と言った。美生はつられるように挨拶を返した。
「どうしたんだい、誰か来たのかい?」
奥から和枝の声が聞こえた。
「あ、おばあちゃん、ちょっと友達が来てるんだけど、いい、ここ使わせてもらって」
「あぁいいよ。お茶でも出すから、待っておいで」
「いいよ、あたしがやるから」
美生は高石らに座るように促した後、和枝のいる奥に引き込んだ。
和枝が番茶をテーブルに並べると、高石らは恐縮したように頭を下げた。そして、和枝が奥に入ると、高石が話し出した。
「こないだは、どうもありがとう。いい助言してもらって」
「いえいえ、あたしは自分の意見を言っただけ」
「後で田代と相談したら、ミキさんの言う通りだって言われて」
「さんづけじゃなくていいよ。あたしの方がイッコ下だもん」
「でも、感謝してるんだ、ホントに」
「こいつ、最近ピリピリしてるから、ちょうどよかったんだ、あんたが説教してくれて」
田代が口を挟んだ。大きな体の割に優しい声だった。
「まぁ、部外者のあたしが口出しするのは、腹が立つかもしれないけど、まぁ、思ったことを言っただけなんで」
「いいんだ、最近真理のやつに意見するやつも少なくなっちまったから。やっぱ、最上級生ってこともあって、みんな遠慮するし、真理も面子にこだわっちまうからな」
「あたしも、ちょっと神経質になってたみたいなんだ。確かに全面戦争になったら、ただじゃ済まないからね」
「相手が、中坊だけとも限らないからね」
「高校生や族がらみってこともあるし、面倒なことになるとこだったよ」
「まぁ、平和でよかったね」
「それで、これちょっとお礼がてら、受け取ってくれ」
田代が封筒を差し出した。
「プーだって聞いたから、現金がいいだろうと思って。とはいっても、オレたちのカンパからだから、少ししかないけど」
「そぉんな、ありがたいこと、遠慮します」
「なんだ。遠慮なんかしなくていいよ。変な金じゃないから」
「感謝は現物がいいって言ってたじゃない」
「それはそうだけど……」
「まぁ、受け取ってくれ」
「そう?……でも、いいよやっぱ。それより、代わりにあたしの相談にのってよ」
「相談?」
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