第9話 親愛なるものへ-9

 一心不乱にご飯を食べ終わると和枝の視線を感じた。箸を止めて唖然と見ている和枝に、美生は自分の振る舞いに問題があったのかと思った。

「どうしたの?」

「いゃねぇ、あんまり一生懸命食べるから、つい見とれてしまったよ」

「はは、もう三日もいるのに、ついご飯には気合が入っちゃって」

「まるで野良猫だね」

「はは、そうかもね。でも、食い溜めってできないんだよ。結局お腹空いちゃうんだ」

「あらまぁ、そんなことしてたのかい。不憫だね」

「いえいえ、プーやってるから仕方ないんですけど」

「プーったって、普通の子は家があって食べるものも寝るとこもあって、ブラブラしてるのに、あんたは何もないんだもんね」

「まぁ、そう言われると、ちょっと違うかな」

「本当に不憫だね」

しげしげと見つめられてそう言われると、ただ笑っているしかなかった。

「あたしも、もう独りで、こんな楽しい食事ができるとは思わなかったけどね」

「おばあちゃん、子供は?」

「いるよ。遠くだけどね。駄目だね、男の子は。家に帰って来やしない。仕事もあるから、忙しいんだろうけど、たまには孫をつれて帰ってくればいいのに」

「でも、いいじゃない、帰って来ることもあるんでしょ」

「…あんたは帰んないのかい?」

「もうしばらくは」

「いつまで?」

「……んー、帰るときが来るまで」

「よくわかんないね、あんたも」

「まぁまぁ。そんなに気にしなくても邪魔だったらすぐ出ていきますから」

「そんなこと言うんじゃないよ。いつまででもいてもいいんだから。ただね……、親御さんの気持ちも考えてあげなよ」

「家はあっても、帰る場所がないこともあるんです」

「なんだい、それ?」

「御馳走さまでした」

手を合わせて美生は片付けを始めた。

「いいよ、あたしがやるから。あんたはお風呂に入りなさい」

「いえいえ、居候ならこのくらいしますよ」

 こんないい子がどうして、という言葉が後ろで聞こえたが、聞こえなかったことにして、蛇口をひねった。


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