第7話 親愛なるものへ-7
「本当に助かったよ。ありがとうね」
もてなしを受けながら美生は礼を言われて照れてしまった。
「あんなとこで、壊れるとは思わなかったからさ、どうしようかと思ったよ」
「何があったの?」
「いやね、車が来て慌てて横によけたら、溝にはまり込んで曲がっちゃったんだよ」
「運が悪かったね」
「本当に」
美生は饅頭を平らげて、手を合わせて御馳走さまと言った。そんな仕種を老女は笑みを浮かべながら見ていた。
「ところで、お嬢ちゃん」
「はい?」
「今日は、学校はお休みかい?」
「あたし学校に行ってないんです」
「おや、そう。いくつだい」
「いくつに見えます?」
「最近の子はよくわかんないね」
「実は、家出中なんです」
「あらまぁ」
「父と母の仲が悪くて、居心地が悪くて、それと少しは戒めのつもりで家出してやったんです」
「おや、そうかい」
「おまえら大人のくせにバカばっかりやって、少しは反省しろ、ってとこですね」
「そうかい。たいへんだね」
「まぁ、なんとかなりますけどね」
「どこで寝てるの?」
「適当に、野宿なんかして」
「まるで浮浪者だね。そんな、若い女の子がそんな危ないことしてちゃ駄目だよ」
「まぁ、なるようになります。これも、運命です」
「運命なんて、そんな大層なこと言って。じゃあ、今日あたしと会ったのも運命かもしれないね」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「ね、よかったら、しばらくうちにいなさいよ」
「はい?」
「いゃねぇ、主人が死んでからずっと独りで淋しかったのよ。店もやってないし、人と話すことも少なくなってねぇ、あなたがよければ、の話だけど」
「全然、問題ありません。ホントにおいてもらえます?」
「えぇ、歓迎するわ」
「少しくらいは居候代出しますから、お願いします」
「そんな、こっちからお願いしたのにね。いいのよ、気をつかわなくても」
「じゃあ、ちょっくら荷物取って来ますんで」
勢いよく立ち上がり、靴を履いて飛び出そうとする美生に老女は微笑みながら、見つめていた。
「それじゃあ、気をつけてね。ご飯用意しておくから」
「ご飯!なんていい言葉だろ」
顔を輝かせながらそう言った美生の顔を、老女はにこにこしながら見つめていた。
「じゃあ、いってきまーす!」
大きな声が店に響きわたった。それは美生の姿がなくなっても、まだそこにあるようにすら老女は感じた。
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