004.進捗

高校生の頃から引きこもりを始め、大学生になり親になんとか許してもらった一人暮らし。仕送りとバイト代でなんとか頑張っているが、お金はない。


 高校生の頃から大好きでやっていたPCゲーム。これも親が買ってくれた。親には感謝しかない。けれど、どこか心を開けないでいた。


 買ってもらったPCを一人暮らしの家へ持っていき、バイトや学校がない時はいつもゲーム。仲が良い『バビさん』と一緒にゲームをやってきたが、今となってはそれも懐かしい。




「彩乃、起きて」




「んぅ、んっ」




 中々起きない彩乃の頬っぺたを摘む。柔らかい、いくらでも触っていられるような、そんな頬っぺた。




「おい、起きてるだろ」




「ばれましたかっ❤」




 彩乃が起きないときは、いつもどこかしら触ったり摘むが彩乃はいつも表情に出る。あのむにゃむにゃした感じだ。だから彩乃が寝たフリをしていても分かるというタネ明かし。




「もっと触ってくれてもいんですよ?」




「ああ、彩乃が寝たあとにいっぱい触ってるよ」




「ふぇっ!」




「ああ、いっぱい触ってるよ」




 いっぱいは触ってないけど多少は触る。というか頭を撫でてしまう。




「千夏くんが寝るまで私、寝ませんっ!」




「できるといいな」




 ベッドから立ち上がり洗面所へ向かう。体を起こすと全身が痛い、シングルベッドで二人で寝てるため狭くて体が十分に伸ばせない。


 彩乃はちっこいので俺の腕の中にすぽっと入るからか体は痛くないらしい。いつもより寝れると言う。


 確かにいつもよりは寝れるかもしれない。誰かと一緒に寝るというのは結構いいものだと最近気付いた。




「おはようございますっ❤千夏くん」




 先に洗面所で顔を洗っていると彩乃が遅れてやってくる。これまた寝癖がいい感じに可愛くなっていて撫でたくなる。




「おはよう、彩乃」




「今日は何しましょうか?」




「今日は、買い物いった後にどこか出かけるか」




「いいですねっ!じゃあ準備しますっ」








 お泊まりを初めて早くも四日。彩乃の高校の冬休みが終わるまではこっちにいるらしい。年越しも彩乃と過ごすのだろう。


 年越しを恋人と過ごすっていうのは嬉しいな。




「やっぱり千夏くんの料理は美味しいです」




「そう?」




 はい、と残念そうに言う彩乃。残念そうなわけはお泊まり二日目に遡る。


 俺のキッチンに「自炊をした痕跡がありますっ!」と大発見のように言うものだから、彩乃に俺がご飯を作ってあげた。すると彩乃いわく、自分の料理よりも美味しいことに衝撃を受けたらしい。そのときから彩乃は「千夏くんのご飯を食べます、、」と開き直ってしまった。


 俺としても別に料理は嫌いじゃないからいいのだけれど、彩乃の料理も少しは食べたいなと思ったり思わなかったり。


 というわけで回想終わり。




「花嫁修業、やり直してきます、」








 ご飯を食べ終えた俺と彩乃は出かける準備を始める。男である俺はそこまで準備に時間がかからない。服は適当に合いそうなものを選び、髪型は適当に前髪を下ろす。


 と、いうのがいつも通りなのだけれど彼女ができてからは一味も二味も違う。


 まず彩乃と付き合ってから買った新しいドライヤーとヘアアイロン。スポーツをやっていたから肩幅が広い俺にも似合う大きめのダボッとした服。アウターにズボンも流行りのズボン。これで身のこなしは大分マシになったと思う。


 そういったセットアップを何着も買った。金のない限界大学生の俺からするとだいぶ痛手だったが必要経費だろう。これからは節約生活。




 彩乃の両親が何をしているかは知らないけれど、泊まりに行くならお金ということで彩乃からかなりの額を貰っているから二人過ごす分には事足りるが人のお金だけあって容易には使えない。




「よし、俺は準備おわったー」




 少し下から「くぁーい」と可愛い返事が聞こえる。


 セットをするときは二人して狭い洗面所で鏡の前で並んでセットする。鏡にはちっこい彩乃と彩乃の後ろに立つ俺という画になる。


 彩乃は歯磨きをしながら返事をしたから濁った返事だった。それも可愛いのだけれど。




「はい、私も今終わりましたっ!」




 ぐちゅぐちゅぺーを終えた彩乃は出かける準備が終わってるみたいだ。


 今日は二人で買い物へ行く。ずっと家でゲームいいけど二人で外に出たい気持ちもあったりする。なので今日はショッピングモールへ行き、服などを見た後に夕食の材料を買いにスーパーへ行く。




「じゃあ行くか」




「はいっ!行きましょう千夏くんっ!」




 彩乃は何をするにしてもいつも笑顔で俺を見る。そんな彩乃が好きだし、そんな彩乃のままでいて欲しい。辛いことがあれば支えあっていけるような、そんな二人でいたいなと笑顔を見ると思う。




「忘れ物ないか?」




「はいっ!ありませんっ!」




 二人で玄関を出て扉を閉める。俺は手を前へ出し、温もりを感じる。


 俺よりも一回りも小さい手を俺は離さない。




 恋人になって、お泊まりもして一緒のベッドで寝て、けれども手をちゃんと繋いだのは初めてなんじゃないだろうか。


 ネッ友から始まり、一目惚れのような笑顔が素敵な女の子に惚れてしまった。色んなことだってしたい、手を繋ぐ、その先のことだって。




 けれど、今は少しずつ、前へ進んでいけたらなと思う。




 だから今は手を繋ぐだけ。




◆ ◆ ◆

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限界大学生と何もできない高校生に裏切りを添えて 吉ヶ原ハヤブサ @ha8busa10

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