003.香辛料
『何してるの?』
『おはよ』
『まだ寝てるの?』
――着信4件—―
『私、何かした?』
『浮気、してるの?』
『そんなわけないよね』
『ゲームしよ?』
『私のこと嫌い?』
――着信53件—―
今日もいつも通り彩乃の猛攻撃を朝からくらう。付き合ったあの日から大体3週間が経つ。彩乃はメンヘラに拍車がかかった。別にメンヘラなのはいいんだけど、度が過ぎてるというか、正直重すぎる。でも嫌ではないという自分がいてびっくりしてる。
「おはよう、彩乃」
朝一番に彩乃に電話にかける。これをしないと彩乃がぐずる。
『起きるのが遅いっ!』
「だって昨日彩乃が夜遅くまで寝かせてくれなかったじゃん」
『そうだけど、昼まで寝るのは違うよっ!』
確かに時間を見ると、昼の12時す、これは寝すぎた。
『千夏くんのバカ、私寂しかったよ?』
電話越しに伝わってくる上目遣い、一緒に居たら襲ってもおかしくない。
「ごめんごめん、ゲームするなら待って。ご飯たべてシャワー浴びる」
『やだ、だめ、そうやって私から離れようとする』
「わかったよ、じゃあ電話繋げとく」
『それもだめ、今日は許さない』
いつもなら電話ずっと繋げておくだけで満足するのに今日に限ってはダメらしい。
「じゃあどうしたらいいの?」
『玄関あけて』
「え?」
『いますぐ』
「え、まさか」
耳に携帯をあてながら玄関の前に立つ。ごくりと唾をのみ込み、玄関を開ける。
「おはようございますっ❤千夏くんっ❤」
「お、おはよう」
俺の動揺にまみれたおはよう。顔は限界までひきつってるに違いない。
まず俺は彩乃に住所を教えたつもりはないし家に呼んだつもりはない。こいつしかもいつから家の前にいるんだ。
「お邪魔しますねっ❤」
「まてまて、なんで居るんだよ」
「それは千夏くんが浮気してないか確認しにきたのもありますしっ、彼女が彼氏の家に行くのに理由なんていりますかっ?」
と、いうわけでっ!と彩乃は俺の家にしっかり入る。寝起きのせいか止める気も起きない。
っていうかまずなんで俺の家知ってんだよ。
「浮気は、してないみたいですねっ❤」
「してないよ、するわけないでしょ」
で。この可愛い女の子が持ってるキャリーケースのようなものはなんだ。俺の記憶ではキャリーケースは泊まりだったり旅行のときに使うもの。
つまり、だ。俺の家に泊まる気かこやつ。
「なぁ、もしか」
「泊まりますっ!!」
食い気味の泊まりますに押されながらもどうにか自我を保つ。
「いや、だめでしょ」
「なにがダメなんですかっ!」
「高校生の彩乃と俺が住むと問題なの」
「でもお母さんはいいって言いましたっ!」
お義母さん!なんで許可なんて出しているの!普通にだめでしょ!
「いや、えぇ、」
「嫌、ですか?」
またこの上目遣い。これをすれば何でもいけると思うなよ、この女め。俺はいけてしまうんだけど。
「ほんとに親の許可があるのかどうか確認したい」
「ありますっ!電話でもしますか?」
「あぁ、電話させてくれ」
「でしょっ❤許可はちゃんとありますっ!」
母親との電話をおえ、疲れがどっと溜まった気がした。母親いわく、『心配などしていませんもの、だってあの子が選んだ人に狂いはないと信じていますので』だそうだ。一応親公認ということなのかな。
「荷物を一通り片付けましたっ!」
今まで一人で暮らしてきた生活感のない部屋に一人の女の子が来たおかげで一気に生活感というか、同棲感ができた。
洗面台には一つのマグカップに二つの歯ブラシが、俺の部屋には知らない服が。違和感というか本当に同棲しているみたいで少しそわそわする。
「じゃあ、ご飯食べましょうっ!」
「ああ、もうそんな時間か」
俺が起きたのが12時過ぎ、彩乃が来てドタバタしていたらもう夕方の6時だった。
「料理は任してくださいっ!千夏くんのために花嫁修業はしてきましたっ!レベルMAXですっ!」
「はいはい」
彩乃と俺はゲームで繋がってゲームで仲良くなったようなもの。彩乃の発言の節々にゲーマーが垣間見えるのは嬉しいというか、いつも通りで笑みがこぼれる。
キッチンに誰かがいて、それを見るというのは何かといいものだ。それこそ高校生以来見ていない気がする。別に母親がいなくなったとかそういうわけではない、ただ俺が部屋から出なくなっただけ。だから少しじーんと来るものがある。
「何か手伝おうか?」
「大丈夫ですっ!私の彼氏くんは座って待っててくださいっ❤」
彼氏への初めての手料理は自分だけで作りたいらしい。そういう頑張ってくれるところも嬉しかったりすす、可愛いし。
「できましたっ!」
「おお〜」
彩乃が作ったのはカレーだった。匂いはとてもいい匂いがする。スパイスが効いてる感じのいい匂い。
「匂いがいいね、食べていい?」
お皿とスプーンを難なく出している彩乃に違和感しか覚えないが、いやほんとになんで場所知ってるの?
「どうぞっ!」
えっへん!と顔に書いてあるぞ、と言いたくなる顔。
「いただきます」
まずは一口、ルーとお米の境目を食べる。
う、うまっ、、、い。スパイスが効いてるからか少し辛いけれど美味しい。
「どうですか、?」
「めちゃくちゃ美味しいよ」
「ほんとですかっ!よかったですっ❤」
彼女の笑顔は100点満点で今日のカレーの一番のスパイスだった。
◆ ◆ ◆
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