002.半分

「バビさん、俺と付き合ってほしい」




「えっ」




 いきなり言われた彼女はまだ何を言われたか分からないみたいだ。


 確かにいきなりかもしれないが、おかしな話じゃない。何年も一緒にゲームをし支えあってきたんだ。ただ実際に会うと実は異性で、自分のことを好きかもしれないというオプション付き。泣き顔も笑顔も大事にしたいと思えるほど綺麗だったんだ。


 そんな異性と会ってすぐとはいえ、意識するのはおかしな話ではないはず、だ。お互いのことをもっと知るのは付き合ってからでも遅くはないと思う。


 そうやって二人でやっていけたらいいと思う。




 一方、彼女は未だに、ぼけーっとしている。




「聞いてる?バビさん?」




「あえっ、?」




 これはダメだ、完全に逝ってる。そんな幸せそうな彼女の顔すらも愛おしく思えてきた。




「もう一度言うね、俺と付き合って欲しい」




「わ、わかった、からっ、はい、」




 なんの『はい』なんだろうか、了承の『はい』なのか、一息ついたのか。


 一世一代の告白をしたんだ。返事はそれはとてもとても気になる。人生で異性に告白することなど初めてだ。高校生の青春なんて消えていった。俺が今のようになったときから、みんな俺から離れていったんだ。青春なんてなかった。


 大学生になった今、自分よりも年下(に見える)の女の子に告白したんだ。振られたら今までの関係など戻るはずない。修復なんて不可能だろう。


 振られたら振られたで、笑い話だろう。勘違い男お疲れ様って、そうやって話す相手もいないか。いたとしても親くらい、地獄だな。




「返事はどうなの、」




「はい、お、お願いします、」




 コンビニの時では少し遊んでいるような余裕の見える女の子だったのに、今となっては借りてきた猫のように大人しい。相当恥ずかしいのだろう。それもそうか、好きな人からの告白、恥ずかしがらない人はいないか。


 でもよかった、勘違い男の業を背負って生きるところだった。




「ほんとに、わたしで、よかったんですか、」




 オドオドしながら言う彼女はどこか可愛くて、少しにやけてしまう。




「なっ、なに笑ってるんですかっ!」




「ごめんごめん、つい可愛くてさ」




 二人して笑う。彼女の方は笑っているのか、怒っているのか分からないけど表情から察するに幸せそうだから、これでいい。




「あ、バビさんは何を言おうとしたの?」




 少し彼女を揶揄う。彼女が何を言おうとしていたかは大体予想がつく。間違いじゃなければ俺と似たようなことを言おうとしたんじゃないだろうか。交際ではないにしろ、交際を前提とした何かであったことは間違いない。




 彼女は頬を膨らませ、むぅと拗ねたような表情をする。彼女の顔は飽きない、喜怒哀楽がはっきりしているから、見ていて楽しい。




「意地悪、///」








 ハンバーグを食べ終え、二人とも落ち着いたところ。彼女が口を開く。




「改めまして、神楽彩乃といいます。高校二年生です」




「至田千夏といいます、大学二年生です」




「シダって漢字でどう書くんですか」




「至るの至に田んぼの田でシダだね、名前は千の夏、だから夏至っていう名前なんだよね」




「なるほど、私なんてネットの名前に意味なんかありませんよぉ」




 俺も意味というか本名からとっただけだしな。




「アヤノはどう書くんだ?」




「あ、あやの、、、」




 徐々に頬を赤らめ下を向いてしまうあやの、可愛いな。




「彩るに乃です、それで彩乃です」




「いい名前だね、彩乃って」




「急に何を言ってるんですかっ!」




 この小動物のような女の子、こんな子が彼女だと考えると中々に嬉しいというか、そわそわするような感覚になる。鼻の先が痒くなるような、そんな感覚。




「可愛いな、彩乃は」




 わしわしと彩乃の頭を撫でる。彼女の顔は段々とにやけた顔になっていく。段々と、だんだん、目がとろんと、おい待て、喫茶店でしていい目じゃないぞっ!


 俺は何かに危険を感じて、すっと手を引っ込む。するとこっちを睨む彩乃。こういった少しツンツンしたところまた可愛い。さっきの目は別として。




「なんで撫でるのやめるんですかっ!」




「彩乃が変な目をしてるから、」




「変な目なんてしてませんっ!」




「いや、結構やばい目をしてたよ」




 人様には到底見せられない顔をしていた。彼氏以外には見せてはいけないような顔。誰にも見せたくなかったっていうのが本心だということは彩乃には秘密。








「今日はありがとうございましたっ❤」




 深々とお礼をする彩乃。感謝と愛と色々の感情が混ざったお礼に若干の違和感を覚えつつ、彩乃とのデート(?)を終える。


 心を落ち着かせ、喫茶店を出たあと、二人で服だったり本だったり、色々見て回った。デートとしてなのかは分からないけど、少なくとも俺はデートだと思っている。デートしてる最中の彩乃の顔は言うまでもなく溶けそうで、終始アイスクリームだった。




「俺の方こそありがと」




「ち、千夏くんっ!」




 こんなにも可愛い子に下の名前で呼ばれるっていうのは素直に嬉しい。可愛いだけじゃない、これからもどんどんと大きくなるであろう好きという気持ちの表れだろう。


 彩乃は俺の名前を呼ぶときはどこか緊張していて、毎回詰まる。そういうとこも可愛い。




「あのですね、今日から私たちは恋人です、」




「うん、知ってる」




「なので、これだけは約束してください、浮気はだめです、」




 なんだそんなことか、俺も他の人から見ればドロップアウトしたような奴。全部嫌になったような男に寄って来るような女なんていないだろうし、俺は中々にガードが固い。バビさんとして何年も関わってきたから今があるが、関係値がないとさすがに慣れ慣れしくはできない。だから浮気するようなことはない、そう誓える。






「神様のことはあんま信じてないけど、神に誓うよ」




「わたしも信じてませんっ!」




「なら、誰に誓えばいい?」




「誓うとかじゃなくて浮気したら殺しますっ❤」




 神様には誓わない。神様は俺が本当に辛いとき助けてなんてくれなかった。誓わないし、信じもしないけど正月だったりのときは神様に手を合わせる。都合のいい奴ってのは分かってるけど、そういうスタンス。


 そういう彩乃は俺を殺すらしい。殺す、。




「殺すっ!?」




「はい、殺しますっ❤」




「あはは、面白いね」




「あはは」




 笑えねぇよ、空気死んでたな。別に浮気しないけどさ、殺すってまじなのか。まじで殺しそうな顔をしてるから怖い。でもそんな気はしていた、彩乃は返信は爆速だし恰好もメンヘラのようだし。でも驚きはした。




「あぁ、浮気したら殺してくれ」




「はいっ❤


 ずーっと一緒ですっ❤


 逃がしませんからっ❤」




 これは逃げれないな。




「それじゃ、またな」




 これからもっと彩乃のことを知って、もっと好きになって、喧嘩して、色んなことをするんだろう。


けど今は半分だけ、半分だけあげる。




◆ ◆ ◆


投稿が遅れてしまいすみません。年始忙しくて投稿できていませんでした。

次話からは投稿頻度も上がるので引き続き読んでいただければ幸いです。


誤字などのご指摘は遠慮なくお願いします。

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