001.交際
「はいっ❤あなたのバビですっ❤」
「えっ」
今日で二回目のショックを受けた俺。ネッ友のバビさんの中身が女の子だったという事実に驚きを隠せない。口が塞がらないというのはこういうことなんだろう。
「言いましたよね?私がどんな奴でも逃げないでください❤って」
いや言われた覚えはあるが、こんな愛のこもった発言じゃなかったけど。
「いや、言われた覚えはあるんだけどね、でもバビさんが女の子だとは思わないじゃないですか」
そりゃそうだろ。オフ会で会うとなって男のふりをした女の子。逆はあってもこれはない。女のふりをした男はいてもこれはないだろう。
「やっぱり嫌ですか?私のような女は、」
「嫌ではないけど、やっぱり驚きの方が強いかな」
またも上目遣いでこんなこと言われれば嫌というのは難しい。嫌ではないけど。
こんなにも顔が良く、万人受けしそうな顔。地雷系なのは好みが分かれるところかもしれないけれど。
「こんなところで話していても目立つので、どこかに行きましょ、?」
「それもそうか、」
それから二人で歩いて近くにあった雰囲気の良い喫茶店に入った。植物が生い茂るこのお店に地雷系の彼女は目立つ。コンビニの方がまだ落ち着きがあったかもしれない。
一方の俺は少し力を入れたから爽やかな恰好であるためか喫茶店との相性はいい。彼女との服装のギャップのせいか彼女が余計に目立つ。
周りから見ればまるで金で成り立つような関係に見えるだろう。
「なに食べますかっ❤」
そんな目をキラキラさせて聞かなくても、なんでこの子はこんなにも嬉しそうなんだろうか。と言ってもこれが分からないほど俺も鈍感ではない。
彼女が俺に女であることを隠していた理由だったりなどの真意は分からないけれど、コンビニでの会話を思い出せば、彼女は俺に好意が少なからずあることは伺える。
だから彼女の嘘もすんなりと受け入れることができたのだろう。
もし彼女の好意が嘘ならば俺は勘違い男ということになる。もしそうなれば3,4年もの間の付き合いもなくなり一番信じていた人からの裏切りというのはかなりキツい。そうなれば俺は全てを諦めて、生きることも諦めようとするに違いない。
だからこそ彼女が俺に好意があると信じるほかない。
「俺は普通にハンバーグランチでいいよ」
「私は~夏至さんと同じやつっ❤」
「そ、そうか」
別にお腹いっぱい食べるわけじゃなければ、彼女のことで頭もお腹もいっぱいだから目についた美味しそうなハンバーグ定食を選んだ。別に特別な意味はないけど、ハンバーグは好き。
「ほんとにさ、バビさんなの、?」
「はいっ❤あなたのバビさんですっ❤」
「いや、そういうことじゃなくてさ、証拠的なものはないの?」
「そんなに信じられないですか、?」
う~ん。と彼女は首を傾げたあとに携帯をバックから取り出し机におく。俺にパスワードが丸見えの状態で彼女は画面を開く。俺とのメッセージ履歴を開き、俺に画面を見せつけた。
「あなたとの今までの会話ですっ❤」
そこには俺との今までの会話が偽りなくあり、俺が送った『着きました。』の一言もしっかりとあった。
「ほんものでしょっ❤もし偽物だと思うなら、触りますか、?」
触りますか、?って俺が知りたい本物どうかには一切関係ないんだけど。
「疑ってごめん、」
「いいんですっ、元はといえば私が騙していたんですからっ」
彼女はたしかに俺のことを騙していた。けれども騙されたからと言って怒りなどの感情が湧かないのはなぜなんだろうか。
それはバビさんの中身が女の人だったからだろうか。
いやきっと違う、ネットの世界で知り合い、ネットの世界で仲良くなった俺たち。姿は見れないけど見れない中で俺はバビさんのことを知り、バビさんと同じ時間を過ごした。場所は違えど、俺と彼女は確かに支えあってきた。俺がバビさんをいいなと思ったのは外見や容姿ではなく、彼女の内側から仲良くなったからだろう。
「いや、なんて言えばいいんだろう、」
言葉が上手くまとまらない。少しの恥ずかしさと普段人と話さないこともあってか、俺は言葉が喉に詰まる。
「そのさ、バビさんの中身が女の子っていうのは結構の驚きなんだけどさ、でも俺が見てきたバビさんの中身は変わらないなら、っていう感じ。もちろん驚きはしたけど、バビさんにも隠す理由があったんだろうしさ」
喉に詰まりながらも彼女に言いたいことは伝わっただろうか。言いたいことは言えたはず、多分。
人と話していないから、話しながら段々と下を向いた俺は返事が返ってこないことに疑問を持ち、顔を上げた。
彼女は泣いていた。
彼女の透明な涙がぽろぽろと彼女の頬を降りる。泣いている顔も美しいけれど、泣いていることに驚きを隠せない。
「えっと、ごめん何か嫌なこと言っちゃった、?」
嫌なことをしてしまったのだろうか。そう思い、ポケットから出したハンカチを差し出す。
「いえっ、嬉しくて、つい」
嬉しくて、涙が出る。嬉しくても俺には少し分からない。俺が彼女に言ったことだろうか、それとも何か他のことだろうか。
どっちにしろ俺には嬉しくて泣くようなことはここ何年もない。彼女の感情性の豊かさに俺は少し自分とは違うことに何か言葉に表せない気持ちになった。
「ほんとにっ、嬉しくて、私のことちゃんと見てくれる人がっ、いることがっ、こんなに嬉しいこととは知らなくてっ、」
言葉の合間に、ひくっ、と息をのむ彼女は、ほんとに嬉しそうだった。
「ほら、落ち着いて」
彼女の涙をはんかちをで拭く。彼女の涙を拭いたせいで彼女の化粧が滲む。せっかく今日のために可愛くしてきたのに涙のせいで台無し。でも嬉しそうになく彼女はとても美しかった。
しばらくして泣き止んだ彼女は俺が渡したハンカチで涙や鼻を拭く。ハンカチを大事そうに持ちながら彼女は落ち着く。
「このハンカチは洗っても返しませんっ」
「別に洗わなくていいよ」
ん、なにか嚙み合わない。
「いえ、返しませんっ」
「返してくれないのか、別にいいけど」
「なんなら洗ってくださいっ、夏至さんの洗剤の匂いが欲しいので洗って私に返してくださいっ」
えへっ、と愛おしく笑いながら言う彼女はやっぱり可愛い。泣いていた顔も絵になるけれど、女の子は笑っているときが一番美しいことに嘘はないみたい。
「落ち着いたならご飯を食べよう」
冷めちゃったけどね、と俺も笑う。
「はい、すみません。せっかくのハンバーグが、」
店内で泣く女の子というだけでも目立つのに格好でも目立つ彼女は注目をこれでもかというくらい浴びた。もともとそこまで人はいないものの、店内の人は全員が全員、俺たち二人に釘付け。
最初こそ注目を浴びた俺たちだけど、彼女が徐々に落ち着くとともに俺たちに集まった視線も少なくなっていく。お騒がせしてしまった。
化粧が涙で滲み、鼻の下は少し赤く、笑顔満点でハンバーグを食べる姿は俺史上一番で美しかった。
「夏至さん、聞いてくださいっ」
ハンバーグを口いっぱい頬張り、ご飯粒が彼女の口の周りにつく。わざとやっているんじゃないかと思うほどのあざとさ。
「ご飯たべてからにしたら、?」
お行儀悪いよ?でもいっぱい頬張る彼女も凄く可愛い。
「今言いたいんですっ!今な気がして、」
今がいいらしい。
俺は先にハンバーグを食べ終えてる。というかお腹いっぱいだったため彼女に半分あげた。そのため先に食べ終わり時間を持て余していたから、彼女の幸せそうな顔を見ていた。
「夏至さんっ!」
口の中身が少なくなり、彼女は喋りやすくなってから一息つく。
「あのですね、」
彼女は胸に手をあて、深呼吸して何かを覚悟する。
「ごめん、まって」
俺は彼女の覚悟を遮る。彼女はきょとんと俺が今から何を言うかはピンと来てないようだった。
「バビさん、俺と付き合ってほしい」
えっ」
彼女の本日一回目の驚きだった。
◆ ◆ ◆
引き続きご愛読ありがとうございます。
誤字や日本語がおかしいところがあれば遠慮なくご指摘ください。
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