限界大学生と何もできない高校生に裏切りを添えて
吉ヶ原ハヤブサ
000.出会い
カリカリと勉強する音。頑張ろうとするその目。
全部が嫌になった。高校を入学して二年までは俺だって上を目指し向いていた。
勉強もバイトも頑張れた。俺ならできると思っていた。
人以上にできる自分とそこそこの顔の自分が好きだった。
身長はそこまで高くないが背伸びすれば175センチくらいはある。
俺はできる奴だと自分に言い聞かせてやってきた。
けれども、そんな勘違いはあっという間に終わる。
何かがきっかけだったわけじゃない。いつの日か夜眠れなくなって昼夜逆転していた。
そんな俺はある日から勉強が分からなくなった。理解できないじゃない。
なぜこれを学ぶのか、この行動に意味はあるのか、全てに疑問を持つようになった。だからと言って意味のないことをしないようになったわけじゃない。自分の行動に意味があるわけじゃないけれど何かが嫌で何もしたくなかった。
やる気があったのは趣味のゲームくらいでそれ以外は寝る。これだけ。
夜は眠れないから朝方までゲームをして意識を失うように寝る。これの繰り返し。
俺の人生は少しずつ狂っていった。
積み上げてきたものが全て倒れて、崩れた。高校の友達とどう顔を合わせればいいかなんてわからない。今自分が何をすべきなのかは分かる。学校に行って進級をし卒業する。そしてそこから自分がしたいことを考えればいい。そう大人は言う。
大人の言うことからも逃げたくて、ただ甘えているだけなのは分かってるけど前へ進むことが俺にはできなかった。
そのまま高校をやめ、転入という形で俺は通信制の学校に変えた。
通信制といっても学校へ行くわけじゃない課題を提出しオンライン講座を受けるだけの学校。
人との関わりがなくなっていき、関わりがあるのは画面の中のネッ友。
親とバイト先の人たちだけだった。
学校を卒業して高校卒業の資格をとり、簡単な情報科へと進学した。この大学も月に一度授業がありこれすらもオンライン。
人との関わりが薄くなっていく中、残ったのは親とネッ友だった。
バイトは何回か変え、変えるたび人間関係はリセット。親とは切れないものがあるとしてネッ友とは仲が良かった。
俺の今の光は間違いなく彼しかいなかった。
毎日のようにゲームを一緒にする。生活習慣も同じように狂っていて同じような人種で嬉しかった。彼が言うには同い年という。
大学生になった今俺は彼と会う約束をした。ネッ友とのオフ会は嬉しかった。
友達と呼べる唯一の存在の彼と会ってネッ友から始まった仲が進化してリア友になる。このことが嬉しくて仕方なかった。
大学生になったといっても入学のまでの間の春休みのような時間はバイトと彼とのゲーム。そして待ちに待ったオフ会。
昔は気を使っていた身だしなみ。家から出なくなった今では気にもしていなかったが、少しは気にする。外に出ることがこんな楽しみだったのは、いつ振りだろうか。嬉しさと少しの緊張で心が躍った。
『明日はオフ会ですね。楽しみですね』
イヤホンから聞こえる彼の声にも俺と同じように少し緊張した声が聞こえた。
「楽しみだけど、少し緊張する」
『緊張するけど夏至さんだからそこまで心配はしていません』
笑いながら言う彼の優しさが嬉しかった。
「俺もバビさんだと安心です、緊張しますけど笑」
やっぱり安心する。恋心とかそういうのじゃないけれど、もしバビさんが女の子ならきっと好きになっていたのかな。明日はオフ会だからだろうが今日はこんなことを思ってしまった。
『僕がどんな奴でも逃げないでくださいよ?』
また笑いながら言うバビさんだった。
明らかに緊張していた。家を出てから自分の前髪だったり服を一々チェックしていた。
いつもは家から出ても深夜のコンビニ、自動販売機ぐらいのものだから周りの目など一切気にせずに行くのに今日は気にしまくりだった。
しまくりもしまくり。気にしすぎて回りのことなど眼中になかった。
もともと身長は周りより少し高くキリっとした顔だった俺は目立つ。こんな生活を送るようになってからか、目立つことを嫌うようになった。
スペックは悪くない。それは分かってる。でも全てが嫌になったんだ。何か自分の中の何かが暗く遠い深い場所へと行ってしまったようで嫌だった。
考え事をしているうちに目的の場所へと着いた。
たしか、このコンビニの前だった気がする。都内は人で溢れかえってることや、どちらもインドアなタイプなため、都内から少し離れたコンビニの前で集合となった。
人通りは少なく何人かが出入りするだけ、待ち合わせなどしていればすぐにバビさんだと分かる。
向こうも同じような感じだろう。コンビニ前とは言ったものの誰もコンビニ前にはいない。
俺の方が先に着いたっぽい。一応連絡を一つ入れる。
『着きましたよ』
すぐに既読が付き、コンビニのドアが開く。
出てきたのは黒を主軸とし冬だというのに短いスカート。世にいう地雷系というやつ。
都内から少し離れたとはいえ、こういった格好の人がいるのも知っているが家で引き籠っていた俺からすれば目を引かれるのも仕方がない。
そんなことよりバビさんのこと。既読が付いたのに返信がない。
いつもはメッセージを送ると三分以内には絶対返信は帰ってくる。返信が爆速なことに最初は驚いたが何年も一緒にゲームをするうちに色々と慣れてきた。
そのバビさんが既読無視が珍しくて少し心配する気持ちもある。
「げーしさんっ❤」
「えっ」
唐突に話しかけられて戸惑う。こんな可愛い女の子に話しかけられる理由なんて、理由なんて。
「えっ」
今確かにこの少女は言った。俺のことを夏至さんと、言った。
「なに固まってるんですかっ❤ご飯でも食べにいきましょっ❤」
この子は何を言っているんだ。まるでバビさんかのように俺に話しかける。
バビさんは同い年で男の人で気の合う友達。そう思っていた。
「夏至さん、やっぱり、女の子じゃダメですか?」
そう上目遣いをしながら聞いてくるバビさんであるとされる彼女。
「騙すつもりとかはなかったんです。でもどうしても言えなくて」
バビさんが男だと思いながら何年も過ごしてきた俺のショックは凄い。別に嫌だったわけじゃないが衝撃が凄い。今思い返せば普通にエロい話だってしてきた。
それを高校生に見える少女と談笑していたことを考えると中々にショックなもの。
「えっと、ほんとにバビさん?」
「はいっ❤あなたのバビですっ❤」
「えっ」
本日二回目のショックだった。
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