第三章 姉妹の確執
第31話
食堂は本館の建物の一階にあった。教室二つ分くらいの広さがあり、手動で開閉するドアのそばに置いてある券売機で食券を購入し、調理をするおばちゃんたちのいるカウンターのところにそれを差し出すと、トレイの上に料理が載って提供される仕組みだ。
生徒たちは個別にIDカードを与えられていて、財布の中にしまったそれを券売機にかざすと、自動的に精算をしてくれる。翌月末に一括して請求される仕組みだ。もちろんそれ以外にも現金での精算も受け付けている。
多くの生徒はやっぱりIDカードでの自動精算を利用している。牧那もその一人のようで、彼女は三台設置されている券売機の一つで、食券を購入していた。
彼女が選んだのは意外にも、カツ丼。それもご飯大盛り。カツ一枚追加の特注。
「どうかしましたか?」
「あ、いや。よく食べるなーって」
後ろでそれを見ていた抱介が、唖然としているのを見て、牧那は首を傾げた。よく食べると言われて、恥じらいを感じたのか頬を赤く染める。こんなところでは恥じらいを感じるんだ? と、図書室での騒動を思い返し、改めて唖然とする。
「先輩は、何にされるんですかー」
「あ、俺? うーん」
と、少しばかり悩んで、無難なかけうどんの小。一玉分とサラダを注文する。その時、財布から抱介が小銭を出したのを見て、牧那はえいっと自分の財布を、IDの読み取り機の前に押し付けた。
「おいっ、何やってんだよ」
「えへへー。さっきのお返しです」
となぜか嬉しそうににっこりと微笑んで、彼女は抱介の分の食券まで手に持って移動を始める。何のお礼だ? 今度はこちらが首をひねる番だった。
牧那はてけてけと小走りにカウンターに向かって駆けていく。その様は、やはり小学生の低学年か。下手したら幼稚園児のようにも見えなくはない。高校生の制服を着た幼い少女が目の前を通り抜けていく。
それから、カウンター越しに調理には時間がかかると言われたのだろう。あちら側にいるおばちゃんの一人から番号札を受け取っていた。そこまでされるとこちらは水の入ったコップを二つ用意して、彼女のことを待つしかできない。番号札は彼女が持っていて、別々の席になるのもなんだか具合が悪い。
かといってこの食堂は彼女の姉であり、前カノでもある季美も頻繁に利用しているのだ。今の彼氏とその取り巻きとともに、同じ卓を囲んでいるのを目にしてから、抱介はこの場所に足を運ぶのをやめた。
まあ、牧那はそんなことは知らないだろう。だって、通学してまだ二日目なのだから。もし、季美のやつとここでばったり遭遇したとしても、無視することにしよう。
姉妹で揉めることがないように祈りつつ抱介は、 「先輩―こっち、こっち!」 と、先に窓際の席を占領した彼女が手を振って呼ぶ方向に、その足を向けた。
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