第27話

 いきなりの猛攻。

 相手に隙を与えないというのはこういう状況を示すのか、と頭のどこかで新しい知見を得た気分になる。


 いやいやいや、それどころじゃない!

 抱介は牧那の顔が迫ってくるのを目にして、慌ててのけぞった。

 上半身をまるまる後ろに反らしたが、捕まってしまう。

 牧那はにへっと大きく口を開けて、獲物をひとのみにするかのように、抱介の唇を奪った。


 それは運動神経が鈍っているとか、あまりにも唐突で反応が遅れたとかそういうわけではない。

 一瞬だけ。

 妹のその仕草に、忘れきれてない彼女の面影が重なって見えたからだった。


「んっ‥‥‥」

「ムッ――!」


 小さく悲鳴をあげても、年下のハンターは獲物を流そうとしない。

 がっしりと頭の後ろに腕を回し、まるで自分にもたれかかるかのように、全身の体重を預けてくる。


 そのまま後退したら、二人とも床に倒れこんでしまう。

 心のどこかで自分が支えなければならない。

 そんな気がして、抱介は牧那の腰を両手で持つはめになってしまう。


 アンバランスなシーソーゲーム。

 支点は牧那が踏み台にしている脚立で、今は相手のか半身が見えないから状況がわからない。

 でも、押し返したら小柄な彼女のことだ。

 多分、盛大に仰け反ってそのまま床に倒れ込むだろう。

 怪我をさせて、後から文句を言われる方が余程目覚めが悪い。


 あー、めんどうくせっ!

 唇を奪われたまま、抱介は自分の下半身を彼女の腰辺りに当てることでどうにか固定する。


「かひゃい」

「ふぐっ?」


 かひゃい? どういう意味だ?

 不思議な日本語にまた思考が揺れる。

 そのぶんだけ抵抗が緩み、牧那の舌はやすやすと、抱介の奥歯まで達していた。


 丁寧に舐るように、上下の歯を舐め上げられ、それから熱い彼女の唇が、自分の唇を吸い上げる。

 まるで甘い砂糖菓子か何かのように、大切にそして性急に、牧那の舌と唇は抱介のそれを犯していく。

 まずい、このままでは下半身に熱がいってしまう。


 そんなところまで知られたら、この先、永遠に自分はこの小さな狩人の標的だ。

 言いなりにならざるを得ない状況が絶対に訪れる。

 受け入れたくない未来を想像してしまい、抱介の背筋にキスの快感とはまた別の悪寒が走った。

 慌てて牧那の体を、腰と片手でどうにか固定する。


 もう片方の手で、少女の長くて豊かな亜麻色の髪を申し訳ないと思いながら、掴むようにして頭を引きはがしにかかる。

 ところが、相手も優るもので、少年の指が髪に触れた途端。


「だめー」


 と、まともな声で最後通告がなにかのようなセリフを吐いて、牧那の舌は抱介の喉奥へとまた侵入する。

 その先に迎えている、彼の舌先を刺激し、長い舌先で絡め取るようにして、抱介の舌を彼の口の外へと導き出していた。



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