第21話
牧那に出会った翌日も、抱介は図書室で一日を過ごそうと考えていた。
「お前、そろそろまともに授業に出ないと、進級も進学も怪しくなるんじゃないのか」
ホームルームが終わった後、教室を出て行こうとしたら誠二が心配そうに、そう声をかけてきた。
できるなら一緒に三年になろう。
大好きな女子に会うためだけに、自分を利用している。
彼のことをそう考えていた抱介は、一瞬、言葉に詰まった。
自分のことを考えてくれている相手がいるなんて、思わなかったからだ。
「まだ早いよ、お前。二年の始まりじゃないか」
誠二の肩を、固めた拳で軽く小突いてやる。
「いってー」なんて大げさにしながら、それでもやっぱり十川誠二はいいやつだった。
「誰も心配してないわけじゃないからな。独りになるなよ」
孤独の方が楽でいいのだけれど。
屈託のない笑顔を残して、彼は自分の席へと戻っていった。
孤独の方が楽でいい。
もう一度、心の中で自分を諭すようにして、抱介は教室を後にした。
「どうして俺なんかにかまうんだ、あいつは。変態部長め」
誠二の趣味を知るたった一人の自分。
ああ、そういえばこれもひとり、か。独りに、一人。
なんだか、ソクラテスの講義みたいな響きがして、ちょっとだけ面白かった。
いや、ソクラテスの講義なんて聞いたこともないのだけれど。
「せーん、ぱいっ!」
長い廊下を職員室に向かって歩く。その途中で階段の影からいきなり小さな女の子が飛び出してきた。
目の前をさっと横切って、驚く抱介の視線をそちらに振り向かせると、彼女はどこにもいない。
バンっ。
と、軽い音とともに背中に痛みが走る。
手のひらで叩かれたんだ。
理解して振り向くと、小柄な悪魔。
八津ヶ原高校一年女子、槍塚牧那がいた。
「お前、すばしっこいなぁ」
中学の時までバスケ部でレギュラーを張っていた抱介の視界から消えて、そのまま後ろに回り込むなんて、なかなかいい運動神経をしているぞ、こいつ。
そう思わせてくれる動きだった。
「えへへっ、そうでしょ? 牧、運動が得意だから。お姉ちゃんよりは素早いはずですよ?」
どこか意味ありげな視線を上目遣いにこちらに向けてくる。
なんとなく次に来る言葉がわかるような気がして、抱介は「はいはい」とそれをかわしていた。
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