第二章 そして一年が過ぎ‥‥‥

第17話

 学校のグラウンドに運動着どころか、ノースリーブのランニングシャツと丈の短いランニングパンツといういで立ちで、練習をする彼女たちをカメラのファインダーに映し込み、十川誠二はムフフと誰にもバレないように嬉しそうな声を漏らす。


 それは隣にいる風見抱介にはばっちりと聞こえていて、おいおいと隣人は困った声を上げた。


「見ろよ抱介、あの股下。足りない胸に、これでもかと鍛え上げられたお尻。むっちりとした太もも……最高の光景じゃないか」


 そう言いながら、友人を共犯者に仕立て上げるべく誠二は抱介に予備のカメラを渡してくる。


「おい、なんだよこれ」

「いいから、お前も持ってろ。それで撮れば、なんでもいい。女子を撮れ」


 こことここと持ってこうやってピントを合わせ、こうしてボタンを押すとこうなるから……と親切丁寧に、誠二は初心者の抱介にカメラの扱い方を簡単に説明する。


 それは買えば十数万はするという高価な品だったが、伝統と格式あるこの八津ヶ原高校写真部の部費からすれば単なる端数にすぎないから気にするな。などと、のたまう友人をじっとりとした目でにらんでから抱介は仕方なく教えられたとおりにカメラのファインダーというやつを覗き込んでみた。


 こんな高価なカメラには全くもって縁がない抱介は、


「これってさー……撮るならスマホのカメラでいいんじゃね?」

 と、問いかけてみる。戻ってきたのは下半身への軽い蹴りだった。

 

 どうやらさっさとやれということらしい。

 めんどくさいなと思いながら、抱介はカメラを構えてみる。

 格好だけは様になっているようで、これについては誠二は口を挟んで来なかった。


 何が伝統と格式だよ。

 今じゃ、写真部部長たる誠二による性欲のはけ口になってんじゃねーか。


 抱介は誠二に対して、そんなことを心の中で突っ込んでやる。もちろん聞こえているはずがないのに、誠二がシャッターを押す手を止めてふと、こちらを振り向いたものだからぎょっとしてしまった。


 十川誠二、十七歳。彫りの深い顔にどこか知的な輝きを灯す瞳を持つ、長身の写真部部長。どちらかといえば芸能人と評したほうがいいような外観をしている。そして写真マニアでもあり、前述したとおりの変態だ。

 変態といってもこいつの場合はまだマシなほうで、写真に写っている被写体にだけ興奮するという、かなりマニアックな度合いの高い変態である。


「学校新聞に載せる写真を撮るからついてこい」


 そう言われてついてきてみれば、案の定この始末だ。全くもって手に負えない。何よりも問題なことはついてこいの後に、「小遣いをやるから」の一言があったことだ。



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