第11話

「風見くん。わたし、あなたのことが好きになってしまったみたい」


 まあ、なんとなくショックで、なんとなくありかなとも理解した。

 あの槍塚だ。

 こんな突拍子もないこともやらかしても不思議じゃなかった。

 それにしても平然とこんな一言を言うのは感心できない。

 語られるべきじゃないことだし、そんな季美の本音を抱介は知りたくなかった。


「だめじゃん。それってあれだよ……浮気になるだろ」


 自分で言っておいて、何、お硬いことを喋っているんだ、俺。と抱介は嘆息する。

 だが二番目は嫌だった。

 できることならば、一番目が良かったからだ。


「ダメじゃないよ、ダメじゃないの」


 と、季美は何度も何度も首を振って否定する。

 その理由が抱介には全く理解できなくて、はあ、とため息をつくことがようやくだった。


「なに? そのため息、生意気だーっ」


 自分は精一杯、あなたのことを好きだと表現しているのに、それが受け入れられないのは悲しいと彼女は愚痴をこぼしていた。

 少年の拒否感は、彼女にとってはこの世にあってはならないような、そんなものに感じたのかもしれない。


「生意気だからどうだっていうのさ」

「生意気だから……殺してしまいたいくらい。私のことだけを考える男に染めてみたい」

「狂ってるって! まともじゃないよ、そんな考え」

「でもいいでしょ? 何も知らないままいきなり好きになられて、唇を奪われたり肉体関係を持たされたりした挙句捨てられるよりはマシじゃない?」


 抱介はその言葉のすべてに狂気を感じた。

 この女は、本当にまともじゃない。

「何もマシじゃないよ……槍塚」

「そう。ならこうする」


 と言って、季美が胸ポケットから取り出したもの。

 その次に、傍らに置いてあった荷物の中から取り出したもの。

 その両方からは隠し撮りのできるカメラのようなものが姿を見せていた。


「分かるよね? 今この場であったことを全部。ネットでバラまかれたい?」

「やめてくれよ。俺だけ被害者だ」

「さーそれはどうかなー。君だけが被害者とは世間は考えてくれないよねー。だってキスしてるんだもん。なんなの、この場で君のこと抱いてもいいんだよ? あ、違うか。私のこと抱いてくれてもいいんだよ?」


 この時はありえない提案が次から次へと上がってきた。

 抱介は逃げ出したいという思いが心を埋めていて、季美が何を話しているのかさっぱり理解できなかった。

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