第一章 出会い
第5話
ほぼ、一年前。
元彼女の
「ね、授業をサボらない?」
新学期早々。
高校一年生になってまだ間もないというのに、同じクラスになった槍塚季美がそう言い出したことが、風見抱介と季美の間に特別な繋がりを生むことになった。
大きな声で言うわけにもいかず小声でヒソヒソと彼女がそんなことを持ちかけてきたのは、四月の頃だった。
入って間もない高校で、一緒になって名前だってまだ知らないクラスメイトもいる中で身長155センチくらいの小柄な彼女は、目立ちたくないと廊下側の真ん中あたりで170センチの身を屈めるようにして座っていた少年に声をかけてきた。
抱介はこんな美少女が自分に声をかけてくるなんてありえないと思いながら、なぜか頷いてしまう。
サボるといっても後からクラスメイトたちに「なんだよ、うまくやったじゃん」とか言われてしまう、そんな内容で。
季美はなぜか学校が始まる前からサボる方法を色々と模索していたらしい。学校に慣れることができない生徒が、クラスに入ることなく個別に自習をして単位をもらうことができる、そんな制度を利用して二人は公然とサボリを敢行する。
授業が始まる前に先生に申請を出し、図書室で自習をすることになった。自習担当の先生はいないけれど、図書室を管理する司書さんがいて、その女性、もしくは担任に確認のサインをもらえばそれで事足りた。
歴史と伝統のある私立八津ヶ原高校は、他の公立や私立高校にしてみればずいぶんと緩やかな校風で、それが二人の間に密やかな関係性をもたらせたのだから、ある意味皮肉としか言いようがない。
ちょうど次の授業は美術の授業で、移動教室になるから二人で必要なものをカバンやリュックにまとめて、そのまま職員室へ。
二階の東館にある図書室はグラウンドに面していて、一番奥の席からはそれらを一望することができた。
高い学費を取る私立高校だからか、テニスコートに野球場、サッカーグラウンドに一つのトラックがあって、部活にもそれなりにお金をかけているのがよく分かる。
図書室に入ると、春先の暖かさがお邪魔してきて、窓際の六人掛けのテーブルに二人で対面して座ったら、それだけであくびが出てしまいそうになった。
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