失恋したと泣いていた片想い中の女子に「じゃあ、俺と付き合ってみない?」と言ってしまったデリカシーの無い俺。次の日彼女の幼馴染であるヤンキー女子から校舎裏に呼び出されてしまう。
失恋したと泣いていた片想い中の女子に「じゃあ、俺と付き合ってみない?」と言ってしまったデリカシーの無い俺。次の日彼女の幼馴染であるヤンキー女子から校舎裏に呼び出されてしまう。
失恋したと泣いていた片想い中の女子に「じゃあ、俺と付き合ってみない?」と言ってしまったデリカシーの無い俺。次の日彼女の幼馴染であるヤンキー女子から校舎裏に呼び出されてしまう。
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失恋したと泣いていた片想い中の女子に「じゃあ、俺と付き合ってみない?」と言ってしまったデリカシーの無い俺。次の日彼女の幼馴染であるヤンキー女子から校舎裏に呼び出されてしまう。
俺、
はぁっはぁっと荒い呼吸をしながら、高校の廊下を駆け抜けていく。
早くしないと…早くしないと…
「
そう呟いた俺はさらに加速した。
美海みんは声優である。
俺の最推し声優である。
誰が何と言おうと最高の声優である。
そんな彼女の生配信番組がある日に限って、俺は教室に忘れ物をしてしまった。
もちろん、ただの忘れ物なら、美海みんの生配信に遅刻するリスクを背負ってまで取りに戻ったりはしない。
しかし俺が忘れたのは明日提出の数学課題。
そして数学の先生は、課題の提出を忘れるとめちゃくちゃ怖い。
仕方なく、俺は猛ダッシュで教室を目指しているのだった。
「うぅ…ぐすっ…」
教室の前に着いた時、中から誰かの泣き声が聞こえた。
慌てて開けようとしていたドアから手を離し、教室の様子をうかがう。
曇りガラスのせいではっきりとは見えないが、女子生徒が1人いるようだ。
おそらく、彼女が泣いているのだろう。
女子生徒が座っているのは廊下から2列目、前から3番目の席だ。
俺は授業中の教室を思い返し、そこに座っているのが誰だったか考える。
俺の席はは同じ列の一番後ろ。そして前から3番目にいるのは…
石花さんだ。
控えめに言って美海みんに負けないくらいの黒髪美人で、男女両性から人気が高い。
俺なんかには高嶺の花だと心得ているが、少しばかり気になっていたりもする。
というか、絶賛片想い中である。
石花さんが泣いている教室に入っていくのは心が痛いが、それと同じくらい、美海みんの生配信に遅れるのも心が痛い。
かといって、数学の課題が提出できないのも別の意味で心が痛い。
痛みに痛んでブロッケンハートな心で覚悟を決め、俺は教室のドアを開けた。
ガラガラという引き戸の音に、石花さんがパッと振り向く。
まずい。目を合わせないようにと思っていたのに、ピタリと目が合ってしまった。
頬を伝う涙の跡が生々しい。やはり泣いていたのは石花さんのようだ。
「小鳥遊くん…」
こちらを認識した石花さんが呆然とする。
「どうして…帰ったはずじゃ…」
「あ、ああ。数学の課題を忘れちゃってさ。ほら、明日提出のやつ」
「そ、そうなんだ」
たどたどしい会話を交わし、俺は自分の机から数学の課題を取り出した。
このまま教室を出てしまえばいいのだが、そうもいかない。
女子が泣いている、それも片想い中の女子が泣いているところに「大丈夫?」の一言もかけられなくて何が男だ。
さあ行け、小鳥遊春っ!!
「あ、あの、石花さん大丈夫っ?心配事とかあったたたたらっ、俺じゃ頼りないかもだけど相談していいよっ?」
頑張った。だいぶきょどったけど、何とか心配の言葉をかけられた。
石花さんは少しうつむいて黙り込んだあと、顔を上げて言った。
「実はね、失恋したの」
「し、失恋?」
あの石花さんが恋を失ったのか…?
そしてそれで独り泣いていたと。
誰だ、彼女をそんな目にあわせた馬鹿野郎はっ!!
「気になってた人っていうか、好きな人がいたんだ。だけど、その人にはもう付き合ってる彼女がいるらしくて。叶わない恋なんだと思ったら、泣けてきちゃった」
そう言ってまた涙をこぼす石花さん。
こういう時、ハンカチを常時持っていない自分が恨めしくなる。
「何て言ったらいいか分からないけど…元気出してね」
果たして、本当にブロッケンハートしている彼女への言葉がこれで正解かは分からないが、とにかく不快には思われなかったようだ。
無理やりではあるものの笑顔を作り、「ありがとう」と言ってくれた。
不謹慎だが、めっちゃかわいい。
「小鳥遊くんは優しいね」
「そんなそんな。当然のことだよ」
「ううん。慰めるのって大変なのに、声かけてくれたの嬉しかったよ」
涙ながらの微笑みからの感謝とかいう欲張りセットなシチュエーションに、俺の理性が崩壊する。
そしてデリカシーの無い俺は、気付けば衝撃的な発言をしていた。
「石花さんも恋愛とか興味あるんだ」
「そりゃあるよ。現役JKだもん」
「じゃあさ…」
「ん?」
「じゃあ、俺と付き合ってみない?」
「へ…?」
瞬間、教室の空気が凍り付いた。
目をぱちぱちさせながら「何言ってんだこいつ」という顔の石花さんを前に、俺は自分の犯した重大な失態に気が付く。
「あ、ちがっ、そのっ」
慌てて弁解しようとしたが、時すでに遅し。
石花さんは勢い良く席を立ち、教室から走り去ってしまった。
「やっちまった…」
俺は頭を抱え、その場にうずくまった。
大馬鹿だ。どうしようもない大馬鹿だ。
失恋した女子に告白するとは何とデリカシーのない…。
俺の片想い、無事ブロッケン。
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翌日、自業自得ながらショックのあまり美海みんの生配信を見逃した俺は、何とか数学の課題だけは終わらせて登校した。
ヲタ友の男子が昨日の生配信について熱く語ってくるが、何にも話が入って来ない。
教室の前の席に座る石花さんは、若干どんよりとした空気をまとって座っていた。
何とかタイミングを見つけて、昨日の発言を謝罪しなければ。
そう思っていた矢先、俺の机の前に1人の生徒が立ち塞がった。
下を向いていた俺の視界にまず入ってきたのは、明らかに校則違反である丈の短いスカート。
そこからきちんとしまわれていないワイシャツのすそを通り抜け、大胆に開けられた胸元のボタンに至る。
さらに上へ視線を向けると、仏頂面の女子生徒が立っていた。
長髪は明るい茶色に染められていて、うっすらメイクもしている。
THE ヤンキー、THE ギャルといった感じのこの人は、クラスメイトの
事もあろうに高校一番のヤンキーで、事もあろうに石花さんの唯一の幼なじみだ。
“石花さんに近づけばあの吉守がついてくる”とは、とある男子生徒の格言である。
そして昨日の俺は、泣いている石花さんをさらに傷つけてしまった。
吉守さんがここに来た理由も、想像に難くない。
「おい」
吉守さんが低めの声で言った。
「昨日、雫と話しただろ」
「あ、はい」
「お前な…」
吉守さんの声が、よりドスのきいたものに変わる。
「雫のこと…」
ここまで言って、吉守さんはあたりを警戒するように見回した。
「ちっ…ここじゃ人がいるからな。放課後、校舎裏に来い。絶対だぞ。それまで雫には近づくな」
俺はただ、ガクガク頷くことしかできなかった。
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帰りのHRが終わり、吉守さんはこちらを一瞥してから石花さんと出ていった。
ヤンキーから校舎裏に呼び出されるとなれば、もう殴られる覚悟をしておいた方がいい。
完全に俺が悪いので、憂鬱ではあるが教室を出て校舎裏に向かった。
「来たか」
腕組みして仁王立ちしている吉守さんの横に、石花さんもうつむいて立っている。
俺は授業中に考え抜いたシミュレーション通り、素早く行動した。
「昨日は本当にごめんなさいっ!!」
誠心誠意、謝罪とともに頭を下げる。
吉守さんのちっという舌打ちが聞こえた。
「顔上げろ」
言われた通りにすると、やはり吉守さんは険しい表情で俺を睨んでいる。
石花さんはというと、相変わらず居心地が悪そうにしていた。
「アタシがキレてんのは分かってるよな」
「…はい」
「お前さ、どういう神経してんの?恋人いんのに雫に告るとか」
「え?」
「あ?」
「は?」
「あんだよ」
俺に恋人がいる…?
一体どこのパラレルワールドの話ですか?それは。
「恋人なんていないですって!!彼女いない歴=年齢、正真正銘の非モテヲタ男子高校生ですよ!?」
自分で言ってて悲しくなったが、事実は事実。
俺に彼女など存在したことがない。
「えっ?小鳥遊くん、彼女いないの?」
ここへ来て初めて、石花さんが言葉を発した。
心なしか、表情が少し明るい。
「いないいない。いるわけがないじゃん」
自分の人生を全否定する俺を哀れむような目で見ながら、吉守さんが話を続ける。
「でもお前、女の写真見てはニヤニヤしてたじゃねえか。なんつったっけ?美海みんとか時々口に出してなかったか?」
「美海みんは声優ですよ。芸能人だし、俺の彼女だなんてそんなそんな。ただのファンですから」
ていうか、ニヤニヤしてたのはまだしも口に出てたのか。
これは気を付けないといけないな。
「…んだよ。ごめん雫。私の勘違いだったらしい。本当にごめん」
唐突に、吉守さんが石花さんへ頭を下げた。
俺はもう、何がなんだか分からない。
「いいよ。小鳥遊くんに彼女がいないって分かっただけで」
そう言うと、石花さんは俺をじっと見つめて言った。
「本当に、恋人いないんだよね」
「いないよ」
「ちなみにだけどさ、昨日のあれって本気…かな…?」
あれって言うとあれですよね。
俺の人生最大の黒歴史。
柄にもなく「じゃあ、俺と付き合ってみない?」などとかっこつけてしまったあれだ。
しかし、元はと言えば石花さんに片想い中だった身。
本気かと聞かれれば…
「タイミングは最悪だったけど、本気は本気だよ。超本気。石花さんと付き合いたいなって思ってたのは、俺の本心だから」
「そっ、そんなに言われると恥ずかしいよ…」
石花さんは真っ赤になった頬を押さえて深呼吸すると、まっすぐ俺に右手を差し出した。
「じゃあ、私と付き合ってみない?」
「…え?」
戸惑う俺に、吉守さんが相変わらず鋭い視線を向けてくる。
「ったく、鈍い奴だな。いいか?雫は好きな人に彼女がいるから失恋したと思って泣いていた。そこにお前が最悪のタイミングで告白した。次の日になってお前に彼女がいるか確かめてみれば、ただ声優にニヤついてるだけだった。それを知って安心した雫はお前に手を差し出してる。ここまで言わないと分かんねえか?」
洪水のように流れてくる情報を、一つ一つ頭の中で整理していく。
このことから導き出される結論は――。
「もしかして、石花さんの好きな人っていうのは…」
視線を向けると、彼女は真っ赤になってうつむいていた。
「うぬぼれるな馬鹿。と言いたいところだが、やっと気が付いたか」
俺は驚きやら後悔やら恥ずかしさが入り混じった複雑な感情を抱えながらも、差し出されている真っ白な手を取った。
「本当にデリカシーなくてごめんなさい。こんな俺でもよければ、よろしくお願いします」
「ありがとうっ…」
石花さんは両手で俺の手を包むようにして握り返してくれた。
「馬鹿らし」
踵を返して去っていく吉守さん。
その背中に、石花さんが声をかける。
「梓、本当にありがとう」
「はいはい」
ヒラヒラと手を振って、吉守さんは校舎裏からいなくなった。
放課後、学校で2人きり。
昨日と同じ状況だが、2人の関係は少し、いやかなり違う。
「石花さん」
「彼女にその呼び方はないと思うな。春くん」
「うっ、雫さん」
「もう一声」
「雫」
「うん。それでよし」
むふーと満足げに笑う石花さん…じゃなくて雫に、俺もつられて笑顔になった。
「雫はこのあと予定ある?」
「ないよ」
「じゃあ、デート行かない?お詫びも兼ねておごるよ」
「お詫びなら行かない」
…え?
俺、いきなりフラれた?
焦りとともに雫を見ると、不満げに頬を膨らませていた。
「もう昨日のことはなかったことにしよ。結果的に付き合えたんだし、2人とも今は幸せ。それでいいじゃん?」
それもそうか。
申し訳ない気持ちはあるけど、ずっとウジウジ言っていては雫も楽しくないだろう。
「それじゃ」
雫は満面の笑みを浮かべ、俺の手を取って駆け出した。
「デート行こっ!!」
そして数m進んだところで、ふと足を止める。
「一つ忘れてた」
「何?」
雫がパッと振り返る。
目がピタリと合うが、赤らんだその頬に涙の跡はない。
「ふふっ」
かわいらしい笑いをこぼした雫は、そのまま両腕を俺の首にまわし…
「…っ!!」
唇を重ねてきた。
1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒…
「ぷはっ」
7秒間のキスの後、雫が俺から離れる。
「言っとくけど、ファーストだからね」
「お、おう」
再びデートに駆けだそうとする雫。
それを、今度は俺が引き留めた。
「どうしたの…っ!!」
1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒…まだ離さない。
8秒、9秒、10秒、11秒、12秒、13秒、14秒。
「ふぅ」
倍の時間キスしてから、雫の頭を離した。
雫は真っ赤だし俺も真っ赤だろう。
2人とも茹でダコみたいだ。
「いきなりはずるくない?」
「雫が言う?」
俺は雫の手を握り直し、仲良く並んで歩き始めた。
初デート…どこに行くかな。
後日、事情を知らない生徒の間で、小鳥遊が吉守に殺されるぞと話題になったことは言うまでもない。
失恋したと泣いていた片想い中の女子に「じゃあ、俺と付き合ってみない?」と言ってしまったデリカシーの無い俺。次の日彼女の幼馴染であるヤンキー女子から校舎裏に呼び出されてしまう。 メルメア@『つよかわ幼女』発売中!! @Merumea
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