11月28日『隙間』

「あれ〜?どこにしまい込んじゃったんだろう?」


 私は家事の合間を縫って、納戸なんどで探し物をしていた。壁際に置かれたチェストの引き出しを片っ端から開けていく。が、見つからない。探しているのは小さい物でもないのに。


 まさか、チェストの裏にあったりして……?


 そんなところに無いとは分かっていたが、念のため確認することに。懐中電灯を持ってきてチェストと壁の隙間を照らすと、


「ん?何あれ?」


 キラリと光る物があった。




「ラビン師匠〜。これって師匠の物ですよね?」


 薬室で調薬をしていた師匠に声をかける。私が納戸で見つけたメダルを渡すと、師匠は少し驚いたように数回まばたきした。


「ティア、これどこにあったの?」

「納戸のチェストと壁の隙間にありましたよ。湯たんぽ探していたら、偶然見つけました」

「あぁ……。あそこにあったのか」


 師匠は手のひらに乗せたメダルをしげしげと見つめている。その表情は穏やかで、目を細めていた。


「そのメダル、装飾が綺麗ですね。デザインも凝ってるし」

「これは、ティアのいた国で貰ったメダルなんだ」

「私の母国で、ですか?」

「そう。僕がいくつかの国や世界を旅していた時……。たまたま、たどり着いた国で大きな戦があってね。国の偉い人は穏便に対話で戦を回避しようとしたけれど、敵の国はお構いなしに攻めてきた」

「そんな事があったんですか……」


 母国の事なのに私は知らなかった。正確には、思い出せないだけかもしれないけれど。


「君の国の話とはいえ、昔の事だよ。ティアが生まれるずっと前の出来事だ。話を戻すけれど、国には大きな魔法研究所があって僕は滞在中そこでお世話になっていた。国への恩もあったから、戦場に出ていって派手に敵兵を蹴散らしたんだ。そうしたら、勲章くんしょうを授与されてさ。このメダルはその時に貰った物なんだよ」

「だから、こんなに豪華なメダルなんですね」

「他の国でも同じように、戦功をあげてメダルを貰ったけれどね。ほとんどは売り払って処分したよ。でも、これだけは手元に残しておいたんだ。ティアの国の人達には、本当に良くしてもらったから。何十年か前、私物の整理をしていた時に失くしてしまったんだけれど……。ティアが見つけてくれて良かった」


 師匠は私の頭に手を置き、優しく撫でた。


「ありがとう。ティアがこのタイミングでメダルを見つけてくれたのは運命かもね」

「運命?師匠ってば、大袈裟おおげさですね〜」


 私はけらけらと笑ったが、微笑ほほえむ師匠の言葉の意味を、もう間もなく知ることになる。

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