11月21日『缶詰』

「や、やらかした……!」


 久しぶりにキッチンの整理整頓をしようと思い立ったはいいものの、戸棚から出てきたのは賞味期限間近のフルーツ缶詰だった。それもたくさん。


 村の食料品店で缶詰の安売りをしていた時に、お買い得だからと多めに買ってそのまま忘れていたのだ。戸棚の奥にしまい込んでしまった過去の自分に説教したい。


「ティア?何かあった?」


 リビングで新聞を読んでいたラビン師匠が心配して声をかけてくれた。私は事情を説明する。


「前に買い込んだフルーツ缶詰の存在を、すっかり忘れていて……。賞味期限がもうすぐなんです。食べ切れるかなぁ」

「そっか。まぁ、賞味期限っておいしく食べられる期間の目安だから、多少は過ぎても大丈夫だけどね」

「うーん。なるべくなら期限内に食べたいです。でも、こんなにたくさんだと……」


 缶詰のフルーツを大量消費できるレシピを考えてみる。フルーツタルトは私には難易度が高い。フルーツポンチは、食べるにはちょっと時期外れな気がする。私が作れるもので、フルーツをたくさん使うものだと……。


「あ、そうだ。食パンはあるし、あれなら作れるかも!師匠、私これから出かけてきますね」

「どこまで行くの?村のお店?」


 妙案を思いついた私はニッコリと笑う。


「そうです。あと、ヘレナおばさんの家にも寄ってきます」



   ◆



「これは……?」


 帰宅した私は、キッチンのダイニングテーブルに買ってきた物と借りてきた物を並べた。師匠は疑問符を浮かべている。


「村のお店で買った生クリームと、ヘレナおばさんから借りてきたハンドミキサーです。生クリームを泡立てて、フルーツサンドを作ろうと思って」

「なるほどね。手伝おうか?」

「ハンドミキサーを借りられたので大丈夫です。師匠はゆっくり新聞でも読んでいてください」


 師匠の背中を押して、キッチンから続いているリビングのソファーへと促した。

 フルーツ缶詰は、りんごに、ミカンに、黄桃、白桃、パイナップル。どれもサンドイッチにするのにぴったりだ。

 ヘレナおばさんのところで生クリームの泡立て方も教えてもらったし、材料も道具も揃った。


「おいしく作れますように!」


 エプロンを着けて、作業に取りかかった。




 正午、食卓に並んだのは、数種類の色鮮やかなフルーツサンド。クリームが若干はみ出しているが、ご愛嬌あいきょうということで。


「うん、おいしくできているね」

「良かった〜。あとでヘレナおばさんにハンドミキサーを返して、フルーツサンドをおすそわけしてきます!あ、食パンの耳でバターシュガーラスクも作ったので、こっちも食べてくださいね」


 少し不恰好なフルーツサンドを師匠は喜んで食べてくれた。

 ……たまには、うっかりミスもいいかもしれない。

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