11月20日『祭りのあと』

 昼過ぎ、私は庭で掃き掃除をしていた。庭木の落ち葉をほうきで集める。ラビン師匠は花壇の雑草を抜いていた。


「今頃、村では銀杏ぎんなん祭りの後片付けしてるのかなぁ」

「そうだろうね。祭りも終わったし、十一月も残り十日ほどだし……。そろそろ秋も終わりだねぇ」

「はぁ。なんか寂しいです。お祭りのあとと言っても、日常に戻るだけなのに」


 私が溜め息をつくと、師匠は微笑ほほえんだ。


「ティア、どこの世界でもそんなものだよ。楽しい時間は、あっという間に過ぎるから。僕が見てきた色んな国でも、お祭りが終わったあとはどこも静かなものさ」

「あぁ……。師匠は異世界転移の術で世界を渡り歩いてたんですよね。異世界のお祭りって、どんなものがあるんですか?」


 師匠は手を止めて空を見上げ、記憶を思い起こしているようだ。


「印象に残っているのは、ランタン祭りかな。たくさんの紙製ランタンを夜空へ飛ばすんだ。幻想的な光景だったよ」

「うわぁ、いいなぁ。見てみたいです」

「それから、トマト祭りはなかなか面白かったな」

「トマト?トマト料理を食べるお祭りですか?」

「ううん。熟したトマトをお互いに投げてぶつけ合うお祭り」

「……それ、お祭りなんですか?」

「うん。起源は知らないけれど、結構長いこと親しまれているお祭りだったよ」

「そ、そうですか。色々なお祭りがあるんですね!」


 トマトを投げ合うなんて、熟していても当たったら痛そうだ。後片付けも大変そう。トマト祭りを想像した私は、引きつった笑顔になった。


「君が魔法使いとして独り立ちしたら……。この家も、祭りのあとのように静かになるだろうね」


 師匠がポツリと、寂しそうに呟いた。私はきょとんとしてしまう。


「何言ってるんですか、師匠。私の独り立ちなんて、ずっと先の話でしょうに」

「そうかなぁ。そうだったら僕は嬉しいけれど」


 私は魔法使いとして半人前。独り立ちなんて遠い未来のことだ。



 ……この時はそう思っていたし、師匠が寂しそうにしていた理由も、ちゃんとは理解できていなかった。私がそれに気付くのは、まだ先の話。

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