11月18日『旬』
明け方まで、ラビン師匠と一緒にいくつかの流れ星を見送った。そして丘陵地帯が朝焼けに包まれる頃、師匠の転移魔法で帰宅する。
一晩中起きていたのでさすがに眠い。師匠も私も、それぞれの自室で昼まで寝ることにした。
◆
「え?村長さんが来ていたんですか?」
昼過ぎに目を擦りながら起きた私は、お風呂に入り、身支度を整え、ようやく遅めの昼食を
キッチンの小さなダイニングテーブルで、トーストとスープだけの簡単な食事。師匠は先に食べたそうで、向かいの席でコーヒーを飲みながらこう話してくれた。
「お昼頃にね。この間、森で神隠しに遭った村の子供達をティアが見つけただろう?あの時のお礼を、って。村長さんと、親御さん達、それに村の何人かが来ていたんだよ」
「へぇ。熟睡していて気が付きませんでした」
「玄関先で対応していたからね。謝礼金を持って来てくれたけれど、僕はあの時、何もしていないから断ったよ」
「そうですか」
「謝礼金ならティアに、と思ったけれど寝ていたからね。起こそうとしたら、村長さんに『かわいそうだから』と止められてさ。また日を改めて、ティアに会いに来るって言っていたよ。多分、ティアに謝礼金を受け取って欲しいんだろう」
「謝礼金って……。いくらぐらいでしょうか?」
何気なく私が質問すると、
「僕がティアに渡している見習い給金の一ヶ月分ぐらい、かな」
「……はい?」
私のお給料一ヶ月分?
「そんな額、貰えません!」
「うん。君ならそう言うと思っていたよ。後で、謝礼金は辞退する旨、村長さんの家に電話しておいて。引き下がらないようなら『村に何かあった時のために貯えておいてください』って言っておけばいい」
師匠は柔らかな笑顔で言った。たしかに、その言い方なら受け取らないで済みそう。
「あと、これは受け取っておいたよ」
師匠がそう言いながら冷蔵庫から取り出したのは、白いケーキボックス。促されて箱を開けると、中身はホールのアップルパイだった。表面は良い焼き色で、網目も綺麗で、見るからにおいしそう。
「村長さん達と一緒に、ヘレナさんも来ていてね。旬のりんごで作ってくれたそうだよ。差し入れだってさ」
「それ……。本当に、差し入れ、ですかね?」
「どうだろう。ヘレナさん、謝礼金を受け取らないのを想定して、アップルパイを作ってくれたのかもね。せっかく手作りしてくれたし、これは頂いていいんじゃないかな」
「……それもそうですね。じゃあ、早速食べようっと!」
アップルパイを切り分けて、師匠の分と私の分、それぞれオーブントースターで軽く温めてから小皿に載せる。
「このアップルパイが、ティアの魔法使いとしての初報酬だね」
「そう、かな?うん、まぁ、そういうことになるのかな」
師匠はアップルパイを眺めて嬉しそうだ。
「僕も食べていいの?」
「もちろんです。一緒にいただきましょう」
二人で食べたアップルパイは、しっとりとした食感、優しい甘さで、とてもおいしかった。
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