11月17日『流星群』
昨日から、ティアの様子がおかしい。
ぼんやり遠くを眺めたり、考え込んでは小さな溜め息をついたり。……僕が余計なことを言ってしまったから、だろう。
朝食後、片付け中にティアが珍しく食器を割った。床に散らばる砕けた白い磁器。「すみません」と謝り破片に手を伸ばすティアは、明らかに元気がない。
「怪我はしてない?僕も一緒にやるから、指を切らないように気を付けて」
「大丈夫です。……ラビン師匠。お皿、ごめんなさい」
「気にしないで。君に怪我が無くて良かった」
破片を拾い、
「午後から出かけようか」
「え?今日は一日、火の魔法を指導してもらう予定でしたが……?」
急な予定変更に、ティアは戸惑っているようだったが、
「火の魔法は、四大元素の中では扱いが難しいものだ。……今の君の状態では、ね。今日はやめておこう」
「すみません……」
落ち込む彼女に、努めて優しく声をかける。
「また別の日に教えてあげるよ。それに、今夜ティアと一緒に見たいものがあってさ。夜になったら転移魔法で移動するつもりだったけれど……。気分転換に、往路は魔法を使わないで行こう」
◆
昼過ぎ、ティアへ「夜の冷え込みにも耐えられる格好で」と服装の指定をした。僕も普段より厚手のコートを羽織る。
簡単な軽食と、温かい紅茶を入れた水筒を二本持って、二人で家を出た。
まずは村から出ている乗り合い馬車に乗って、街へ向かう。定期的に運行されている乗り合い馬車は、乗り心地はあまりよくない。
ガタゴトと揺れる馬車の座席で、ティアは不安そうな表情だ。
「師匠、どこへ行くんですか?」
行き先を伝えていなかったが、全部バラしてしまうのもつまらない。僕は
「綺麗なものを見に行くだけだから。気楽にしていていいよ」
街へ着くと時間潰しも兼ねて、いくつかの商店を見ていくことにした。魔導書も扱う古書店に、小さな魔法具店に、鉱石を売る専門店など。村では見られない品が多い。
街に来たついでに、この後の荷物にならない程度で少額の買い物をした。
「そろそろ今日の目的地へ行こうか」
街を出て、丘陵地帯の一画を目指す。なだらかな坂を上って行った。僕の後ろを歩くティアは、まだ表情が晴れない。
「師匠、日が暮れてきましたよ。どこまで歩くんですか?」
空が茜色に染まってきた頃、僕は立ち止まった。
「この辺でいいかな。東の空もよく見えるし」
「ここが目的地、ですか?」
「うん。ここでレーベ流星群を見ようと思って。明日の未明から明け方にかけてがピークだから」
「流星群……。流れ星を見に来たんですね」
草原に布製のピクニックシートを敷き、家から持ってきたスコーンと紅茶で軽い食事にした。
日が完全に暮れる前に動物避けの結界魔法を張っておく。そして、寒さに耐えながら流れ星を待った。
「ティア、気分転換にはなりそう?」
「そう、ですね……」
「……昨日は余計な口出しをして、すまなかったね」
「いえ!そうじゃ、ないんです。私、昨日からずっと考えていて。なんで魔法使いになろうと思ったんだっけ、って」
ティアは、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私が、師匠に弟子入りしたのって……自分から望んだわけではなかったから。最初は、形だけの弟子、っていうか……」
「そうだったね」
「でも、師匠が魔法を使うところを私が初めて見た時に、心が動いたんです。あの時、……ずっと続いていた日照りで、この地域が水不足だった時。師匠は
「あー、そんなこともあったねぇ」
「師匠は『これはおまけ』って、雨が上がる時に虹をかけました。その虹が、すごく綺麗で。……あの後、村の人達は『天の恵みだ』と、久しぶりの雨に喜んでいました。私は、師匠の魔法だよって話したかったけれど、誰にも喋りませんでした。喋れなかったけれど私の師匠はすごいんだと、誇らしかったです」
「……そっか」
「あれが、私が魔法使いを志したきっかけ。魔法はあんなに綺麗で、人に喜んでもらえるんだって。魔法が好きになったんです。……だから、師匠」
話すティアの顔に、もう憂いはない。
「私にもっと魔法を教えてください。師匠ほどの技量は習得できなくても、私は魔法使いとして生きていきたいです」
僕の弟子は、指針を
「分かったよ、ティア。
「はい!……って、え?明日から、ではなくて?」
「レーベ流星群は、明日の明け方まで見られるからね。明日は寝不足だろうから……。ゆっくりしようよ」
「ふふっ。そうですね。明後日から、また頑張ります」
吹き出して笑うティアと、つられて笑顔になった僕の頭上で、流れ星がひとすじ空を
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