11月4日『紙飛行機』

 私が夕食の後片付けをしているかたわらで、師匠は鼻歌を歌っていた。小さなダイニングテーブルで彼は色紙いろがみを複雑に折っている。

 拭き終わったお皿を食器棚に戻しつつ、師匠にたずねてみた。


「ラビン師匠、折り紙ですか?」

「うん。そうだよ」


 師匠の声のトーンがいつにも増して明るい。上機嫌みたいだ。


「ティアは折り紙のこと知っているんだね。この国ではあまり馴染みがないと思うんだけど?」

「いつだったかに読んだ本で知りました。東の海を越えた先の国では、色紙を折ってさまざまな形を作って遊ぶって」

「そっか。ティアもやってみる?集中力も鍛えられるし楽しいよ」


 後片付けの手を止めて席に着き、私も折り紙をやってみることにした。


「何を作ってみたい?簡単なのがいいかな」

「初めてなのでどんなものが作れるのか分かりません」

「じゃあ、単純な折り方の紙飛行機にしようか」

「かみ、ひこうき?」


 聞き慣れない単語に首をかしげる。


「あぁ、この国には……というか、この世界には飛行機はまだ無かったね」

「かみ、は折り紙の紙ですよね。ひこうきってなんですか?」

「異世界で使われている乗り物のことだよ。空を飛んで、人や荷物を遠くへ運ぶことができるんだ」

「……異世界?」

「そう。僕は昔、異世界転移の術を使ってあちこち旅していたからね」


 異世界転移の術、と聞いて私の中の好奇心が刺激された。

 何それ。楽しそう!


「師匠、その話もっと詳しく教えてください!おもしろそうです!」


 思わずイスから立ち上がってしまった私に、師匠は微笑ほほえんだ。


「では、紙飛行機を折りながら昔話でもしようか」


 その晩、師匠の旅の話を聞きながら色紙を折った。異世界の旅の話はまるで冒険小説を読んでいるかのようで、心躍るものだった。


 ちなみに折り紙の出来はというと……。師匠は丁寧に教えてくれたが私には難しくて、いくつかの不恰好な紙ひこうきができあがった。

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