11月2日『屋上』

「師匠〜!なんでこの寒い中、わざわざ屋上で修行しなきゃいけないんですか!?」


 曇天の下、冷たい風が吹く。コートを着てブーツを履いて手袋をしていても、寒くて寒くて、魔杖まじょうを持つ手が震える。ぶるぶると震える私とは対照的に、師匠は薄着で朗らかに笑っていた。


「ティア、こんな日は風魔法の練習にぴったりだよ。風を感じるんだ」

「意味が分からないです!」


 この小さな洋館の屋上は、普段は洗濯物を干すのに使っている。風を遮るものはない。


「そんなに縮こまっていたら修行にならないよ。ほら、構えて」

「うぅ〜!」

「しょうがないなぁ。じゃあ、僕が風の攻撃魔法を使うからティアは防御壁で防いでね」

「え」


 師匠が魔杖を軽く振る。すると小さな旋風せんぷうが起こり、徐々に大きくなって私に近づく。


 ……ちょっと待って、これ防御壁で防げるの?


「っ!」


 思わず反射的に魔杖を振った。私が使ったのは防御魔法ではなく、


「あ、引っかからなかったかぁ」


 ディスペル、……解除の魔法。


「師匠!危ないじゃないですか!」

「えー。多分、防御壁でも防げたと思うよ?周りに被害が出ていたとは思うけれど」

「ちょっとおぉぉ!」


 我が師匠は、本当に食えない人である。

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