雪待ち月の物語 2021 〜深淵に落ちた雫は波紋を広げる〜(ノベルバー 2021)

うたた寝シキカ

11月1日『鍵』

「ラビン師匠。師匠がいつも首から下げているその鍵って、なんの鍵ですか?」


 雪待ち月である十一月最初の朝。小さなダイニングテーブルを挟んで、私と師匠は朝食をっていた。何気なく発した私の質問に、師匠はきょとんとして一瞬固まった。


「ティア、覚えてないの?この鍵は君から預かっている物なんだけど」

「え?」


 今度は私が固まった。どういうことだろう。全然、そんなこと覚えていない。

 師匠は苦笑した。


「まぁ、預かったのは君が弟子入りしたばかりの頃だからね。十年近く前のことだし記憶も薄れているんだろう」

「んー、薄れているどころか……。綺麗さっぱり記憶から抜け落ちているようです」

「それでも、君にとっては大切なもののはずだ。だから、君に返す日が来るまで僕が大事に預かっているよ」


 師匠は穏やかな表情で微笑ほほえんだ。


「食べ終わったら魔法の勉強をしよう。四大元素のおさらいからだ」

「はーい」


 朝食のお皿を片付けながら窓の外を見れば、庭の木々が風で葉を落としていた。

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