弐拾捌
秋の食物狩りの仙人のもとへ出かける当日。
電車とバスを乗り継いで向かうため、玉穂達三人は稲荷餅の最寄りの駅で待ち合わせをしている。
一足早く、待ち合わせ場所に到着した玉穂は自主製作をした旅の栞なるものを見返していた。
「おぉーい! 玉ちゃぁ~ん」
少し距離のあるところから声がした。それは、こむぎからのものだった。
「おはよう、こむぎちゃん」
「おはよう、玉ちゃん。伊久ちゃんは……、まだみたいだね」
珍しく発起人の人物が来ない。一体、何をしているのか。
玉穂達には少し心あたりがあった。
「あ、伊久ちゃんだ」
こむぎが駅に近づいてくる伊久実の姿を発券した。
「伊久実……、おはよう。眠そうね」
玉穂は伊久実の様子を察した。
「あーおはようっはぁー」
数日前。
玉穂とこむぎは新聞で入賞した。伊久実も県の大会で金賞を取った。その後、全国まで進出し、多数のメディアに発表された。その影響か、銀月神社外宮に準備中の空き家を見に来る見物客や飯森食堂の御客増加があり、帰宅後も早朝の準備も学校の時間と睡眠時間以外は働きづめだった。
伊久実目当ての来店や過労により、学校生活に支障きたすとし、しばらくの間、飯森食堂をお休みするという。現在は生活リズムを取り戻す期間である為、伊久実やその肉体は通常の体調へ戻そうと頑張っている。
そして、今回の旅は気分転換を兼ねたものだった。
「三人だけで出かけるのって久々じゃない?」
伊久実が以前にも出かけたことを思い出そうとした。
「そう? 三人だけって言っても、私達まだ小六だから、学区外のところには行けない。以前だって、稲荷餅以外からは出たことないじゃない」
小学生の行動範囲には限界があるということを現在認識する。
「でも、たぶんこれが最初で最後の小学生だけの遠足なんだろうな~」
こむぎはしみじみと感じた。
三人は切符を購入した。ホームでしばらく待った後、目的地の駅へ向かう電車がやって来た。
目的の駅は稲荷餅最寄りの駅から隣の駅の為、五分ほどで到着するが、距離があるため電車に乗る必要がある。
目的の駅へ降り、今度は仙人の住む山へ登るためバスに乗る。
片道五百円ほどで、二十分ほどの場所にある。
「ねえ、その仙人っていう人とは事前に連絡は取ったの?」玉穂は伊久実に確認をした。
「ああ、うん。なんか、携帯持ってないから常連さんも一緒に食物狩りへ来てくれるんだって」伊久実は答えた。
目的のバス停に着き下車した。
そこには道の駅があり、露店で野菜や果物を販売している場所があった。
「あ、おじさ~~ん」
「あ~~、伊久ちゃ~~ん」
そこには数人の作業着姿の男性がいた。彼らは伊久実が看板娘を務める飯森食堂の常連さん達だ。
そして、お店の奥で用意をしていたのが、玉穂達が人伝いで聞いている通称・仙人。ここでの暮らしは長く、林業など山に関わる様々な事業を行っておりこの山の事で知らないことはない。まさに、仙人と呼ぶべき人だ。
彼も水色の作業着を着ており、長い白いひげというイメージには似合わないが、頭と髭が白だということが間違いはない。
「みんな、揃ったか。嬢ちゃん達も言われた通りの格好をしてきたな。じゃあ、行くか」
玉穂達は安全のために前後を大人に囲まれながら不慣れな山道を進んでいく。
今回は見つければお店で提供できるものを運べるだけ運ぶという。
玉穂は甘味処の店長(仮)の為、今回のお目当ては栗だと事前に通知している。
仙人は山の中での山菜、松茸、筍の採取の達人である。また、麓では栗やサツマイモなど旬の野菜を育てている。それらは各お店とも取引を結んでおり、飯森食堂もその一部だ。
何を採取するかは事前に決め、仙人に伝えてあるが、玉穂は秋の新作メニュー候補の栗を取る。伊久実とこむぎは山菜を取る。また、師匠や常連客達と一緒にお店で提供できそうな食材を取る。
数に限りがあるため、数量限定販売になる予定だが、できる限り多くの季節限定メニューを提供できるように頑張る玉穂達だった。
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