弐拾壱

 稲荷餅・総買収計画は古び、高年齢層が多く住む稲荷餅を再開発しようという私営で出資される計画。その結果、黒字となった都市も数多くある。

 しかし、詐欺被害に合い、さらに都市としての負債と借金を負ってしまったという例も数多く。稲荷餅も現在の姿と再開発を行い新しい姿へ活気を取り戻そうと議会では日々討論が行われている。

 都市開発の影響として、銀月神宮から離れた現在の駅がある地域は畑や田んぼなどの農地として広がっていたが、町の発展などや農家の後継者不足が影響して駅とショッピングの複合施設などが建設された。

 そして、現在。玉穂達の夏休み期間中に行われる夏祭りにて、稲荷餅の全体を買収しようとする企業の傘下店舗と玉穂、伊久実、こむぎ率いる稲荷餅商工連合の総収益を掛けた戦いが始まる。

 出店形態について商工会議所副会長や商店の店主たちと話し合っていた。

「ひとまずは、今までのあまり変えずに一店舗ずつの方がみなさんに混乱招かなくていいよね」

 こむぎは従来型の屋台展開を提案する。

「ねえ、思ったんだけど、私達、小六組だけで一緒にお店出すのはどう?」

 伊久実はとんだ発想の提案をした。

「というと?」

 玉穂は伊久実の提案に関心を示した。

 伊久実は小学校を最終学年の年に稲荷餅の命運を分けるような危機的状況が来ているという緊張感とこの状況を玉穂とこむぎ。そして、伊久実の三人で新しい店舗方式を取り入れた方法で三軒分を一店舗にしてみてはと提案をした。

「まあ、悪くない話ね」

 玉穂は腕を組み理解を示した。

「でも、伊久実ちゃんと私のところはともかく、玉ちゃんは甘味処だからジャンルは違うよ」

 こむぎは伊久実に質問した。

「そこをこの機会に食べれるがいいんじゃないかと思うんだ」

 伊久実は通常では一緒に注文のできない看板メニューを注文できるという夢のような注文システムを示した。

「それなら、境内に空き家があるから屋台と両方で営業するのはどうだい?」

 宮司が販売する施設について話をした。

「飲食店の営業ができるように私たちも手伝うからどう?」

 副会長も協力の意を示した。

 早速、宮司を先頭に商工会議所副会長、稲荷餅に店舗を持つ商店。そして、玉穂、伊久実、こむぎの小六三人組は境内の空き家を見に行った。

 空き家は十年前にお祭りなどの行事で短期間に使われて以来、ほとんど使われなくなってしまった。

 そのため、玉穂達が来た頃には蜘蛛の巣が張り巡らされ、床にもほこりがたまっていた。

「夏休みが入った一週間後に夏祭りが行われるから、夏祭りのメニュー作成を考えていたら、あまり時間も無いわね」

 玉穂は夏祭りまでの逆算をして、急ピッチで夏祭りの用意を行わなければならないと考えていた。

 掃除の手伝いも祭りの関係者達が行うという。店内のレイアウトなどは玉穂達が中心に行われる。

 玉穂達は土日祝日を中心に境内の空き家のレイアウトと夕方からはこむぎの家に行き、お祭り限定メニューの開発を行った。

 夏祭り当日。

 午後からほとんどの屋台で営業の始まる。午前中の現在、各店舗では営業の準備を行っていた。

 銀月神宮外宮出入口となる第三大鳥居の前に一台の高級車が止まった。

 背の低く、ブラックカラーのボディーに正面とバックのロゴには王冠のマークが刻み込まれていた。

 運転席で操作を行っていた大柄な男性とSPらしき黒づくめの男達数人が続々と車の周りを覆う。

 一人は助手席側、後ろの座席のドアを外から開けた。

 車内からは背の高い男性が出てきた。

 大鳥居の近くにこむぎを待っていた玉穂と伊久実は男性の姿を見つめていた。

「あの人って、もしかして……」

 伊久実が直感的に感づいた。

「たぶん、今回の夏祭りの敵対相手……、私たちの稲荷餅を守らなきゃ」

 玉穂と伊久実は今回の結果によっては、結果が決まってしまうのだと自覚していた。

 男性達はそのまま境内の中へ入って行った。

 夏祭りは三日半行われる。

 それは、今日の午後からの半日を含めた日数だった。

 営業開始前に仕事着に着替えた玉穂、伊久実、こむぎは円陣を組んだ。

「二人とも、今日は最初で最後かもしれないけど、売り上げ競争とか考えないで、この状況は楽しむべきだよね」

 玉穂は町の存続がかかった戦いを楽しもうと少々喜んでいた。

 正午。既に町中に告知していたお店のため、境内の大きい通りから行列が出ていた。

「いらっしゃいませ~~、開店です。順番に応対させていただきますので、ご協力をお願いします」

 小麦は準備中の看板を営業中に裏返しに出てきた。

 甘味処・玉月、飯森食堂、むぎまめ麺生家の定番メニューと限定メニューを同比率で販売する。それぞれ、個性あるお店だが、水準を調節するのは多くの時間をメニュー構成に費やすほど悩まなかった。

 一日目、二日目ともに好調の売れ行きだった。店内と屋台の二つの販売方式の為、売り上げにはそれぞれ違いがあるが、両形態も工夫を凝らしたものとなった。

 三日目。総収益が土地を貸した神宮に公開される日。

 営業終了後。出店した店舗の代表が外宮内の会議室に集まっていた。

 それは玉穂、伊久実、こむぎも該当するものだった。

「あ、副会長……。結果は……」

 玉穂が副会長へ今回の収益結果を聞いた。

 すると副会長は少々険しい表情した。

「それが……、私たちが上手だったな」

 言った途端、やわらかい表情となった。

「なんだ~~、テレビとかじゃないんだから、言う前に怖い顔しないでよ~~」

 伊久実も副会長の前振りに心臓がおかしくなりそうだったが、稲荷餅は今後ともこの形態で存続するため三人は安堵した。

「あっ、あと、三人とも今回使った空き家で今後もお店を続けてくれないかな?」

 それは、宮司からの突然のオファーだった。

 今後も不定期で営業するということで検討していくと一先ず返答した。

 夏祭りを終えた三人は急いで夏休み定番の大量の宿題、絵日記、自由研究または新聞製作を行った。

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