弐拾

 一学期期末テストが終わり一週間後。

 テストは全て返され、玉穂、伊久実、こむぎはテスト期間中も商いと両立しながらテスト勉強を行っていた。

 しかし、テスト期間以前から日々の授業の予習と復習を重点的に行って来た賜物だった。

「はーー。やっと、一学期のやることは終わりーー!!」

 伊久実はテストに解放された喜びで椅子に座る体制になりながら、大の字となった。

「伊久実、はしたないわよ」

 玉穂は伊久実に姿勢を正しくするように注意した。

「そうだよ。テストに解放されても今後あるイベントへの参加の有無に拒否権の無い私達には、開放という言葉はほど遠いんだからね」

「むぎ、いつにもまして厳しいな~~。でも、事実だから……、大人対子供でなかなか厳しくなりそうだよ」

 話は臨海学校から帰宅後の後日。

 玉穂、伊久実、こむぎは早朝から開店準備を行っていた。

 ほぼ同時刻に準備中の店内へ御客が来た。


「たまちゃん」


「はい?」


「伊久ちゃん」


「はいよ~~」


「むぎちゃん」


「何でしょうか?」


「「「ちょっと、話があるから銀月まで来てくれ!!」」」




 三人は仕事場の服装で構わないと急いで銀月神宮へ向かった。

「あっ、玉、むぎ」

「伊久実……、会議所の人から言われて……」

「私も~、一体何かな?」

「あっ、三人とも中へ入って」


 宮司から会議室へ入るように誘導される。

「三人とも忙しいのに来てもらって申し訳ねえ」

「ところで、こんな朝早くに私たちを呼んでどうしたんですか?」

 玉穂は商工会議所の副会長へ聞いた。

「それが……、こんな書類が会議所のもとへ届いて……」

 副会長が卓上に出したのは、稲荷餅・総買収計画と書かれたインパクトのある大判の茶封筒だった。

「中身って、見てもいいですか?」

 玉穂は副会長に聞いた。

「もちろん、どうぞ」

 三人は茶封筒の中身を見た。

 そこには稲荷餅全体の買収計画に関する意義や経費などの稲荷餅を一社で管理しようとするありとあらゆる資料が溢れ出てきた。

「この資料は、例の会社から送り付けてきたんですか?」

 伊久実は落ち着いた口調で副会長に聞く。

「いや、会社に一般社員として勤める人がスパイ的な活動をしていて、彼から送られてきたそうだ。氏名などは書かれていない。恐らく、身の危険もあるため伏せているのだろう」

「それよりも、これの資料は私たちにとってチャンスだ。この企業の傘下がこの夏祭りに屋台で何件か出店する」

 宮司はこのピンチをチャンスに変えると提案をする。

 商工会議所、稲荷餅の商店組合、地域住民や宮司達は、今回の夏祭り限定で稲荷餅や近隣の商店達と連合を組み、大企業の傘下達に対して合計収益で戦おうという。

「無謀そうですけど、大丈夫でしょうか~~」

 こむぎは不安げに言った。

「いや、彼らは長くこの土地の特性や住民について知らないわ。ここの特色を生かせば必ず勝てる」

 玉穂は理論的な考えで言った。

「私達は向こうの会社へ法的措置を持って戦う。夏祭りの収益管理などを務めるのは君たちに任せたいんだ」

 副会長からまだ小学生の玉穂達に当日の責任を任された。

「いや、でも……、私達こんな大きいこと……」

 伊久実は渋った。

「もちろん、名義は私達だ。しかし、発想などを最先端的なアイディアを出せるのは君達しかいないんだ」

 副会長からそうお願いを頭を下げながら言った。

 三人は少々考えた。

 だが、この町を、稲荷餅を守りたいという気持ちは変わらなかった。

「分かりました。私達の町は私達が守ります」

 そこから三人は大切な地元を守る夏休みが始まるのだった。

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