玉穂達は甘味処着いた。

「ただいま~。お客さん二人です」

「お帰り」

 その声は両親の声や、甘味処で働く従業員さんたちの声でもなかった。それは、常連の銀髪イケメンだった。

「あら、今日もいらっしゃったんですね」

「最近は甘いものが欲しくてね。それらのお嬢さんたちは同級生?」

「そうですよ。飯森(はんもり)食堂の店主(仮)の飯森(はんもり) 伊久美(いくみ)とむぎまめ麺生家の麦荳(むぎまめ) こむぎちゃんです」

「うーっす!」

 伊久美は軽い挨拶をした。初対面の成人男性に対しては軽すぎる気もするが常連さんはニコッとした顔をした。

 ただ一人、口を空いたまま男性を見つめる少女がいたが。

「あっ、あっああっ……」

「むぎ、どうしたんだよ。開いた口がしまってないぞ」

「ふふっ……、可愛いね」

 その言葉に何かの攻撃力があったのように玉穂や伊久美には見えなかったが、その時、こむぎは倒れてしまった。決して、病気などではない。それは、恋? なのだろうか。

 

「ふっふぁ――――――、良く寝た」

「大丈夫、急に倒れちゃったけど」

「大丈夫です。大丈夫でっ――――――」

 こむぎは、急いで横になっていた畳から伊久美が座っている場所の裏に移った。

「あ――――――は、は、はっ。僕、嫌われちゃったかな」

「いえ、お兄さんは嫌われてはいないですよ。こむぎは仕事以外で男性と関わることが少ないので、緊張しているんです。特にあなたには」

「え! 僕に? ごめんね、こむぎちゃん」

「いっ、いえ、私も急に倒れてしまいましてお騒がせしました……」

「へへー、むぎ男慣れしてなさすぎー! これじゃ、お兄さんに付き合っぶっ!」

 こむぎは伊久美の口を塞いだ。

(この子、普段はのんびり、おっとりしているけど、急なこととなると恐ろしいわね)

 玉穂はこむぎの今後の成長を心底(しんそこ)不安になり、恋のライバルとなったらと思いと恐怖を感じた。幸い、玉穂には思いを寄せる人はいない。このまま、平穏にこむぎが大人になってくれ! と玉穂は後日、社殿で懇願するのだった。

 

 伊久美、こむぎは注文した特製あんみつを食べ、仕事場へ。こむぎと仲良くなった銀髪のイケメン常連さんも二人と同じタイミングでお店を後にした。

 

 玉穂は今日の収穫がこむぎの意外な一面を見たことだった。

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