乾いた風の吹く朝。桜の花が散り、若葉が咲き誇る桜並木。道路の縁には落ちた花びらが集まっている。

 通学路を歩く一人の少女。学校指定の制服を身につけ、頭にはベレー帽。両手をショルダーバッグの肩に当てる。

「今日は体育か。なんか嫌だなー。家に帰ってきたら、お店だし。小学生という身であっても、忙しいものは忙しいなー」

 実家の仕事と小学生生活を両立する白月しらつき 玉穂たまほは、いつものように通学の朝を迎えている。


 玉穂の通う小学校。稲荷餅いなりもち小学校。稲荷餅小学校は、南の校庭、更に南に稲荷餅に暮らす中学生が通う稲荷餅中学校がある。

 小学校の全校人数は、百人程。運動会や音楽会などの行事には、中学校と合同で行われている。

 徒歩二十分で学校の正門に着いた。木製の下駄箱で履き替える。高学年の教室が入る棟の三階に六年生の教室がある。


「おはよう」玉穂は所属する六年生の教室に入る。

「おー。たまおー!おはよ」

 玉穂に挨拶した黒髪のショートカットヘアの同級生。彼女は大衆食堂を営む飯森はんもり食堂の看板娘の飯森はんもり 伊久実いくみ

「おはよ〜。たまちゃん」もう一人明るい髪色の同級生が挨拶する。彼女は稲荷餅では名の知れた会社のご令嬢。玉穂と同じように製麺所兼お店の店長(仮)てんちょう麦荳むぎまめ こむぎ。

「おはよ〜。って、いーちゃん!『たまお』って、言い方はやめてよ〜」

「いいでしょ。たまは、たまおだから」

「分かんないよ〜」

「たしかに、たまちゃんが、たまおになるって、私だったら、玉助たますけたま多摩たまたまご。たま。たまー。た〜。ふん。ふ〜……」

「あー。こむぎ、また、寝ちゃったー」

「仕方がないよ。こむぎちゃんも、お店の経営を朝早くから夜遅くまで頑張っているから」

「まぁ。私もたまも帰ったらお店だからね。生まれながらにして定められた運命か。なんか、カッコいい気がしない?」

「どうかな」

 玉穂、伊久実、こむぎは朝の談笑を楽しんだ。

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