一章2 裏組織の優しいリーダー?

「でも……情報収集ってどうやって」


「……確かに」


 海衣は勢いだけだったので、不知の冷静な疑問に答えられない。


 代わりに透が口を開き、

「一つ、私に心当たりがある」


 そう、言い放った。


「お、なになに!」

 海衣は透の言葉に期待をかける。


「明日、『スパイス』のリーダーが城にくる」


「あ、兄貴さんか。よかった、これで食糧もなんとかなるね。ただ……」


 不知はそれを聞いて理解を見せたが、顔を曇らせた。


 透は不知の言いたいことを理解して、

「あの人が話してくれるか……どう?」


「うーん、五分五分だね。兄貴さん、透を危険に巻き込みたがらないだろうし。気持ちは分からなくもないけどね」


 不知はため息をつく。


「そんなに、私はよわい?」


 いつも冷静沈着な透には珍しく、明らかに声のトーンを下げて嘆くように呟く。


「いやいや、それはちがうって」

 その嘆きを不知は、はっきりと否定した。


「え?」

 透は不知の勢いにきょとんとするが、

 

「……これ、ボクの口から言っていいのかな」


 不知はためらうと、

「ごめん、言えない。とにかく、透があの人から頼られていないわけじゃない、というのは絶対だからね」


 この場ではそれだけにとどめてしまった。


「……」


 透は全然納得がいっていないようだが、これ以上不知が話す様子もない。


 ようやく何も知らない海衣が話に割りこめる間ができた。


「ストップ、リーダーってどんな人?」


 透が所属する裏組織、『スパイス』のリーダー。

 確かに裏組織のリーダーならば情報をたくさん握っていそうだ。


 しかし、不知が「兄貴さん」と呼ぶあたり、そのリーダーの人柄がピンとこない。


「まあ、いい人ではあるよね。透さんもそこには同意?」


「……うん」


 不知は続けて、

「一応小さな裏組織のトップではあるけど、海衣が身構える必要は全くないよ。むしろそこらへんの優しいお兄さんみたいな感じだからね」


「ええ……」


 裏組織のリーダーで、優しいお兄さん。海衣の想像に及ばない。一体どんな人なのだろうか。


「ま、優しいならそれに越したことはないか」


 裏組織だろうと、優しいトップは歓迎されるだろうなと海衣は楽観的に考えた。


 性格が良いなら、とにかく明日、できるだけ情報をもらえるように説得すれば良いのだろう。


 これで海衣の疑問は解消だ。情報を得られる目処もたったかもしれない。


「なら明日、兄貴さんとやらに話を聞くと言うことで!」

 海衣は決まったことを統括する。


「おっけー」

「了解」


「じゃ、行ってくる」

 話が終わったところで、透は一度に固形食を呑み込むと、席を立った。


「いってらっしゃい」

「がんばって!」


「うん」

 そのままドアを開けて、透は今日の鍛錬のために外へ向かってしまう。


 海衣と不知も、出かける透を見送ると美味しくない固形食をひと思いに完食した。


「それで……どうして、その人は教えてくれないかもしれないの?」


 海衣は不知に、先程の二人の会話で気になったことを尋ねる。


 不知の口ぶりだと、教えてくれない理由まで知り尽くしているようだったが。


「海衣なら、やりとりを見たらすぐに分かると思うよ。透が気づけないのがおかしいんだから」


 そう言って不知は、透が出て行ったダイニングのドアを、赤子に困らせられたような目で見つめた。

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