第7話
「今日はなんかドタバタだったけど、楽しかったね」
未来が横で言う。かすかに冷たい夏の風が心地いいベランダで、俺たちは話していた。
「そうだな。フキエルたちに出会えてよかったよな」
「うん・・・.ねえ、拡くん」
「ん?」
俺は未来の横顔を見る。未来はなぜか不安そうだった。
「私もいつかはフキエルみたいに、忘れちゃうのかな・・・?」
「・・・・・・。」
「前の家族のことも、友達のことも、この名前も、いつしか拡くんのことも忘れちゃうのかな・・・?覚えてたいのに忘れちゃいけないことも忘れちゃったら、どうしよう?」
俺はその時初めて未来が泣いたのを見た。
今までも泣いていたのかもしれない。心の中で。でも未来はそれを必死に見せないように隠していたんだろう、そう思うと胸がギュッと締め付けられて思わず未来を抱きしめていた。
「大丈夫だ。俺はどこにも行かないし、お前がどこにいても会いに行ってやる。この世界のどこにいても、来世だとしても、必ず。だから未来がどんなに覚えてなくても俺に会ったらそのつど思い出せばいい。いや、思い出させてやる。俺が思い出させてやるから・・・そんなに泣くな」
「ふふっ・・・それ、半分プロポーズじゃん。拡くんがいたら私は大丈夫だね、ありがとう」
そう言うと、未来は少し頬を赤らめながら背伸びをして俺の頬にちゅっ、とキスをした。
俺が驚いていると、斜め後ろの方から突然ドンっ!と大きな音がした。
「いっ・・・・・・・・・たあ~!」
声の主はドアのガラスから覗いているフキエルだった。そのとなりにいたのはもちろんティアイエル。
「ちょっと兄さん、何してるんで・・・・・・・・・あ」
俺たちは向こうの監視者と目が合ってしまって・・・
「なっ・・・・・・!今までずっと見てたのかよ!?」
と叫んだ。未来の方はというとさっきよりも顔を赤くしてうずくまっている。
「そんな怒るなって・・・。ちょっと覗いたらこうなってたもんだから。最初から見てた訳じゃないぞ?先輩」
そう言った彼の顔はニヤニヤと笑っていた。
「わ、わたくしは何も見ていませんよ!ただ兄さんが・・・」
ティアイエルは顔を赤くしながら必死に弁解しようとする。その様子を見た未来と俺はティアイエルに歩み寄って、
「「同罪っ!」」
と言う。そのとき、
「うるせー!もう少し静かにできねえのか!いま夜だぞ、自覚しろ!」
と鼓膜が破れるかと思うほどの大きな声が聞こえた。ここの店主だ。
俺たちは声をそろえてしょんぼりと言った。
「「「「はーーーーい・・・」」」」
・・・寝るか。
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