第4話

女性にはそのやり取りは聞こえないようで、


「えっと、どのようなところに行きたいですか?」


と、言葉を発した。


「お昼ごはんを食べられるところを探しているんです」


と答えたのは未来だ。

すると女性は、笑顔で両手をぱちん、と合わせて


「でしたら!いいところがあるんです!」


ついてきてくださいね、とお団子結びにしている金髪を揺らしながら先を歩く。

さほど時間も掛からずに、目的地に着いたようだ。


「ここは、わたくしが働かせていただいているお店なんです。以前わたくしは貴族の奴隷だったので主様と一緒に来ていたのですが、そのときから虜なんです!」


女性はそれを言ってから、あれっ・・・?と首を傾げる。


「あなた様方の奴隷はいないのですか・・・?」


なんと、と俺は未来と顔を見合わせる。この世界で貴族が奴隷を連れて歩くのは普通らしい。


「あー、悪い。実は俺たち、貴族じゃないんだ。ごく普通の一般人なんだけど、この国に迷って入っちまったみたいで・・・。」


「本当、ごめんなさい」


「そう、なのですか?」


女性は青い瞳をぱちぱちさせる。


「だから、お気遣い全く無用」


「ごめんねー。この馬鹿が変な嘘ついたから・・・」


馬鹿とは心外だな。とふてくされていると女性はフフッと笑って、


「そうだったんですか、なんだかほっとしました。でも、その服じゃぁかなり

目立ちますね」


と言う。

そう、とても目立つのだ。先ほどから本当の貴族だと思ったのであろう何人もの人がうつむいているのだから。何とかしなければならない。


「お腹もすいてるし、わざわざお店まで案内してもらっちゃったけどとりあえず服を買わなくちゃいけないみたいね・・・」


女性はそうですねえ、とつぶやいてから、


「あの店がいいと思います!」


と、歩き出す。俺たちもそのあとについていった。


お店は周りの家々と変わらないようで土と石でできている。


「ここはわたくしの行きつけです。店主がとてもいい人で、服も安いんですよ」


女性はそう言うと、慣れた足取りで中に入っていく。中はわずかな明かりで少し薄暗かったが、服はたくさん置いてあった。しばらくしてここの店主であろう人が奥から顔を出してきて笑顔で言った。


「あらっ、ティアイエル!今日はお客さんを連れてきてくれたの?」


「はい、おばさん!この人たちは先ほど会った・・・あ、えっと、名前、知りませんでした」


女性、ティアイエルは困った風にこちらを見る。


「未来と言います」


「拡です、よろしくお願いします」


「ミクとヒロね、よろしく。それにしてもあなたたち、不思議な格好をしているのねぇ」


店主は顔をしかめて言った。俺は一瞬考えてから


「こちらでは、珍しいかもしれませんね」


とだけ答えておくことにした。


拡たちは着替え終えた。終えた、のだけど・・・


「なんだ・・・これは」


俺は嘆く。そう、ギリシャの服は、見ていた時は気づかなかったが男性がズボンではないのだ。


「なんか、スースーする・・・。」


ともじもじしていると、未来が簡潔に教えてくれた。


「体操ズボン履いとけばいいじゃない」


「あ、確かにそうだな」


未来はあきれ顔でハァ、とため息をつく。一方の女性の服はワンピース型になっているので気にならないそうだ。もちろん未来のギリシャ服姿を見たときにドキンとしてしまったことは誰にも言わない。

そして脱いだ制服はというと、店主とティアイエルが興味津々に眺めていた。


「これ、とっても細かく作られてるんですね。全く見たこともない素材です・・・特にこの装飾品が美しいです。ヒロさん、これはとても高かったのではないですか?」


突然問われた俺は、顔をしかめて


「まあ、ちょっと高かったかな」


と答えておいた。曖昧なのは、日本よりもポンペイのほうが物価が安いからだ。

と、ひとしきり会話を交わすと、服の代金、5アス(日本でいう500円)を払って俺たちのコスプレは完成した。




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