ヤンデレ彼女だけど、愛を伝えまくるとタジタジになって可愛いから問題ない

shiryu

エピソード



 俺は、お風呂が好きだ。

 お風呂に浸かっている時間はとても癒されて、疲れが水に溶けるような感じがとても良い。


 自宅のお風呂はギリギリ足が伸ばせるくらいの広さしかないが、問題ない。


 むしろ銭湯などの広いところよりも、狭い風呂の方が好きなくらいだ。


「ふぅ……」


 今もお風呂に浸かって疲れを癒していたが、そろそろ出よう。

 時間としては三十分ほど経っただろうか。


 もっと入っていられるが、そろそろ出ないとあの子も心配するだろう。


 風呂を出て身体を拭き、ズボンだけ履いたところで、俺は風呂場に置いてあったスマホを手に取る。

 瞬間、スマホがブブッと震えた。


 メッセージアプリに連絡が入ったのだろう。


 いつものことなので見なくてもわかるが、アプリの右上についている連絡件数を確認する。


『68』


 うん、いつもよりも少ないかもしれないな。


 この数は一人の可愛い女の子から、俺が風呂に入っている三十分の間に来たメッセージだ。


 その内、電話件数は……『25』か。

 今日は電話の方が多かったみたいだ。


 メッセージアプリを開き、メッセージの中身を確認する。


『悠くん、夜だね。月が綺麗だよ』

『悠くん?』

『悠くん、なんで返事がないの?』

『悠くん、どうしたの?』

『悠くん、お風呂かな?』

『それなら仕方ないね、悠くんはお風呂はゆっくりと浸かりたいんだもんね』

『返事が来なくなったところから計算して、あと二十七分と十六秒はお風呂に浸かってるよね、悠くんは』

『大丈夫だよ、私はその間待てるから』

『しっかり待ってられたら、ご褒美欲しいな』

『ご褒美は、私達の子供……ふふっ、楽しみだなぁ』


 おっ、ここでちょっと途切れてる。

 ご褒美欲しさに、少し我慢してくれたのか。


 十分ほど空いて、またメッセージが来てるけど。


『悠くん? 浮気してないよね?』

『悠くんがこの時間はいつもお風呂に入っているって私が知ってるから、、その時間だけは怪しまれてないと思って浮気してないよね?』

『ねえ、悠くん?』

『お風呂に入ってるだけだよね?』

『もしかして誰かと一緒にお風呂に入ってたりする?』

『私ですらまだ悠くんとお風呂に入ったことないのに、他の女と一緒に入ってる?』

『悠くん?』


 ここで一回、電話が入ってる。


『なんで出てくれないの?』

『そっか、お風呂に入ってるんだもんね、他の女と一緒に』

『もう私のことはどうでもいいんだよね』

『そうだよね、こんな重くてウザい私のことなんて、もう嫌いだよね』

『悠くん』

『悠くん、好きだよ』

『私のこと嫌いになった?』

『悠くん』

『悠くん』


 この後はほとんど、俺の名前を呼んでいるメッセージと、電話の繰り返しだ。

 うん、いつも通りで可愛いな。


 おっと、ちょうど彼女から電話がかかってきた。


「もしも――」

『もしもし悠くん? 既読ついてから一分と二十三秒も経ったのに返事がなかったから電話しちゃったよ。なんで返事してくれないの? お風呂から出たらいつも早めに連絡それか電話してって言ってるよね? あっだけど連絡してくれなかったから電話出来たね、それは嬉しいな。というか本当にお風呂だったのかな、悠くんはいつもこの時間に平均三十二分四十五秒の間お風呂に入ってるけどさ』


 すごい、俺が口を挟むところが特にない。


『お風呂じゃなくて他の女性とイチャイチャしてたんじゃないの? いやもしかしてお風呂の中でイチャイチャしてた? ずるいよ、私のこと嫌いになった? それだったら悲しいけど、悠くんを――』

「大好きに決まっているだろ!」

『うぇ!?』


 俺が叫んだ言葉に、彼女は可愛らしい変な声を出した。


「霊那のことを俺が嫌いになるわけないだろ! 愛してるぞ!」

『え、あっ、うぅ……あ、ありがとう、悠くん……!』

「本当に俺の愛が伝わってるか!? 俺がどれだけ霊那のことを愛してるか、理解できてる!?」

『う、うん……! し、してると、思うよ……!』

「本当か!? じゃあどれくらいだ!?」

『えっ!? ど、どれくらい……せ、世界一、とか……?』

「違う!」

『えっ……やっぱりそうなんだ、悠くんは私が好きじゃ――』

「宇宙一だ!!」

『ふぇ!?』

「いや宇宙じゃ足りないくらいだ! この想い、ビックバンごときじゃ爆発力が足りない!」

『はぅ……!』

「その声も可愛らしい! もっと聞かせて欲しい!」

『うぅ……も、もう言わないでぇ……!』

「ぶっちゃけ、電話させるために返事をしなかった! ごめん!」

『そ、それなら、嬉しいけど……』


 俺が彼女の霊那にそう愛を叫んでいると、風呂場に妹の朱音が入ってきた。


「バカ兄貴、うるさい。リビングまで声が聞こえてる」

「ああ、悪い、ごめんな」

「……まあいつものことだから慣れたけど」

『っ、悠くん、女の声が聞こえたけど、誰? もしかして他の女と一緒にいるの?』


 朱音の声が聞こえたようで、霊那がまた少し怖い声になってそう言ってきた。


『こんな時間に一緒に? 私を差し置いて?』

「妹の朱音だぞ、霊那。何度か会ってるだろ?」

『……朱音ちゃん? 本当に? 神に誓って?』

「俺にとっての女神は霊那だから、霊那に誓って本当だぞ」

『あ、うぅ……!』

「……バカ兄貴、早く風呂場から出てってよ」

「ああ、ごめん」


 朱音に言われて風呂場から出た後も、まだ電話は続いている。


『だけど今朱音ちゃんと一緒にいたってことは、一緒にお風呂に入ってたの? まだ彼女である私も悠くんと一緒に入ったことないのに……!』

「いや、一緒に入ってないぞ! 一緒に入ってたのは俺が小六、朱音が小五の頃までだ!」

「バカ兄貴! 余計なこと言うな!」


 どうやら俺の声が聞こえたようで、風呂場から朱音の叫び声が聞こえてきた。


『本当に? 本当に入ってない?』

「ああ、そんなエロ漫画みたいに妹と入って欲情するなんてことは、絶対にないって約束する!」

「だから余計なことを言うな!」


 また朱音の叫び声が聞こえてきた。


『う、うん、わかった。だけど、十二歳の悠くんか……! ふふっ、そんな小さい悠くんと一緒にお風呂なんて、想像しただけで鼻血が出そう……!』

「じゃあ今度、その頃の俺の写真を一緒に見ようか」

『う、うん! すごく楽しみ……!』


 上擦った声になった霊那、とても可愛らしい。


「じゃあ、明日も学校があるから、また明日な」

『うん……これから約十時間と三十二分もまた悠くんの声が聞けないと思うと、寂しくて死にそうだよ』

「我慢してな、霊那。また明日、いっぱい話そう」

『わかった……じゃあね、悠くん。また約十時間後にね』


 そして俺は霊那との電話を終えた。

 この後も俺が寝るまで、メッセージアプリでのやりとりは続いた。


 多少遅れてもしっかり理由を話せば待ってくれるし、許してくれる。


 俺の彼女、安喰霊那は、いつもながらヤミかわいい。


   ◇ ◇ ◇


 ――朝だ。

 カーテンから差し込む光で意識が覚醒すると同時に、身体が重いと感じた。


 昨日は結構早めに寝て、七時間は寝ているから疲れが残っているとは思えない。


 だから、いつも通り――。


「ふへへ……! 悠くんのお部屋の匂い、お布団の匂いだ……! ああ、悠くんの寝顔もすごい可愛い! 食べちゃいたい……! 食べてもいいかな? いいよね? 私、悠くんの彼女だし? 食べても全く問題ない、むしろ推奨されるはず……!」


 うん、やっぱり霊那が寝ている俺の上に乗っているだけだ。

 おそらく俺に会いたくて会いたくて、こんなに朝早く俺の家に来てしまったのだろう。


「おはよう、霊那」

「ふぇっ!?」


 俺は声をかけると同時に、霊那の手を引っ張って横に寝かせた。

 すぐ横に寝かせたので、霊那の可愛らしい顔がよく見える。


 俺が引っ張ったことに驚いたのか、パッチリとした目が大きく開いている。


 まつ毛も長く、肌も透き通るように綺麗で、これでほとんど化粧をしていないというのが驚きだ。


「あ、うっ……!」


 血色がいいピンク色の唇が震え、そんな声が漏れてきた。

 霊那の黒くて長い髪が少し顔にかかってしまっているので、それを手で払いのける。


 とても艶があって触り心地がいい髪で、毎日でも撫でたい、というか撫でる。


「霊那、今日は何時に起きたんだ? いつも会いに来てくれるのは嬉しいけど、大丈夫か?」

「え、えっと、六時前くらいだから、大丈夫……! 悠くん、ちょっと、近いよぉ……!」


 顔が真っ赤になっていて可愛い。

 俺のことを食べるとか言ってたのに、こんなんで大丈夫なのかな?


 いつか俺も食べたいのに。


「このまま一緒に寝るか」

「うぇ!? そ、それはすごい魅力的だけど、心臓がもたない……!」

「頑張って」

「う、うん、頑張る……!」


 よし、まだ眠いし、霊那を抱き枕にしてもう一眠り――。


「バカ兄貴! もう朝飯出来てるから起きろ!」


 大きな音を立てて部屋のドアを開けて、朱音が入ってきた。


「……また霊那さん、来てたんですか? 不法侵入だと思うんですけど」


 朱音が俺と霊那を見て、ため息をつきながらそう言った。

 仕方なく俺は起き上がり、布団から出る。


「大丈夫、俺が許したから」

「いや、私も一緒に住んでるだから、私の許可も必要でしょ」

「……それは確かに。朱音、許してくれ、霊那の可愛さに免じて」

「……はぁ、もう慣れちゃったから別にいいけどさ」

「お、おはよう、朱音ちゃん」

「おはようございます。霊那さんも一緒に朝ご飯食べます?」

「うん、ありがとう」

「うんうん、俺の妹が将来の嫁と仲良くて、俺は嬉しいぞ」

「しょ、将来の、嫁……!」

「はいはい、ご飯食べますよー」


 霊那がまた顔を赤くしてフリーズしたが、朱音は慣れた様子で無視して、部屋を出てリビングに向かった。


 俺も霊那を連れてリビングへと向かい、三人で朝ご飯を食べる。

 両親は家にいない、去年から父親が海外出張に行って、母親がそれについて行ったのだ。


 父さんは家事が壊滅的だから、母さんがついていかないといけなかった。


 あと数年は帰ってこないようだが、もう俺も霊那も高校生だからまあ大丈夫だろう。


「これ、朱音ちゃんが作ったの?」

「はい、そうですよ」

「前に私が送った髪の毛とか入れてくれた?」

「あんなん捨てましたよ、気持ち悪い」

「なんで!? 悠くんが食べるもの全部に私の髪の毛を入れて欲しいのに……!」

「髪の毛なんて食ったらお腹壊しますし、あともう生理的に無理なんで」

「俺は大丈夫だぞ、霊那の髪なら食える」

「バカ兄貴は黙ってて」


 おかしい、俺の食事の話なのに。

 とりあえず黙って朱音が作ってくれた料理を食べよう、うん、美味しい。


「ほら、悠くんは大丈夫って言ってくれてるし」

「貴方達の特殊プレイに私を巻き込まないでください。というか髪を食うな、気持ち悪い」

「あ、朱音ちゃんって、前から思ってたけど、意外と毒舌だよね」

「正直者って言ってください」

「そこは悠くんに似てるよね。思ったことを全部言う感じが」

「バカ兄貴ほど何も考えずに言ってるわけじゃないですけど」


 うん、やはり将来の嫁と妹が仲良いのは嬉しいな。


 そんな感じで、俺達は仲良く朝ご飯を食べて学校へと向かった。



 俺と霊那は高校二年生で、同じクラスだ。


 席は隣同士で、窓際の一番後ろ。俺が窓際で、その隣に霊那の席だ。

 俺は御共という苗字で、霊那が安喰なので、特に出席番号が近いというわけじゃない。


 俺と霊那の関係を知っているクラスメイトが、そうしてくれるのだ。


「悠と安喰さんを離したら怖いからな」

「うん、御共くんは霊那ちゃんと一緒にいてあげて。御共くんと他の女子が話してると、霊那ちゃんに呪われそうだから」

「御共くんの周りの席は、霊那ちゃん以外の女の子はいかないようにしないとね」


 ということだ。

 とても優しいクラスメイトばかりで嬉しい。


 昼休みになり、俺と霊那は席をくっつけて一緒にお弁当を食べる。


「悠くんお弁当作ってきたよ。本当なら朝昼晩全部私が作ってあげたいんだけどね。身体は食べ物で出来るから私の料理で悠くんが形づくられると考えるともう興奮して興奮して夜も眠れないよ」

「ありがとう、霊那。いつか結婚したら朝昼晩全部作って俺の身体を作ってくれたらいいと思うぞ」

「あぅ……!」

「あと夜はしっかり寝ないと身体壊すから、しっかり寝ような」

「う、うん、だけど悠くんのことを妄想しちゃうと全然寝れなくてね。今頃悠くんは何してるのかなぁとかお風呂入ったのかなぁとか、そう考えると全然寝れなくて……」

「じゃあ一緒に寝れば俺が何をしてるかと考えないでいいから、ぐっすり眠れるかもしれないな。今日は一緒に寝るか?」

「はぅ!? ゆ、悠くんと一緒に寝るなんて、私死んじゃう……!」


 瞳孔が開き切って暗いオーラが出たり、顔を真っ赤にして恥ずかしがったりと、表情の変化が激しいけど、やはりとても可愛いな。


 その後、俺は霊那のお弁当を食べて、ゆっくりと昼休みを過ごした。


 そして放課後。

 いつも通り霊那と一緒に帰るのだが、霊那は日直だったので職員室に用があり、俺は教室で霊那を待っていた。


「悠、帰らないの?」

「ん? ああ、霊那を待ってるから」


 スマホをいじりながら霊那を待っていると、クラスメイトの男が二人が話してかけてきた。


「ああ、そっか。安喰さん、日直だったもんね」

「……なぁ、悠っていつから安喰さんと付き合ってるんだ?」

「中二からだな」

「高校入る前からなのか、それは知らなかったわ」


 この男とは高校二年から一緒のクラスになったので、そりゃ知らないだろう。


「ぶっちゃけさ、安喰さんってめちゃくちゃ重くね?」

「重い? 結構軽いぞ。今日も朝起きた時、俺の上に乗ってたがとても軽かった」

「いや、そういう意味じゃねえよ。その状況もすげえ気になるけど」

「いつも通り、いつの間にか霊那が俺の家に入ってきてて、俺の寝顔を眺めてるって感じだ」

「うわー、なんかそれ怖くね?」

「そうか?」


 よくわからないが、他人から見れば怖いのか?

 確かに知らない人が朝起きて上に乗ってたら怖いが、霊那だしな。


「学校でお前らのことを見てるだけでも、安喰さんってすげえ重いってわかるし」

「ちょっと、やめとけよ」


 もう一人の男友達がそう言うが、そいつは半笑いで続ける。


「いやいや、宗二もそう思うだろ? 悠が他の女子と話してるだけで呪いそうな勢いで睨むんだぜ? 重いなんて言葉じゃ収まり切らなくね?」

「……」

「悠って頭が良くてカッコいいから、本当なら結構モテると思うんだよなぁ。安喰さんがそれを邪魔してるっていうかさ」


 そいつは笑みを浮かべて話を続けようとする。


「安喰さんって結構暗いし、何考えてるかわからないよな。悠ならもっといい女の子と――」

「なぁ」

「ん?」


 俺はそいつの肩を掴んで、話を遮る。


「な、何? というか、肩、なんで掴んで……」

「お前が言いたいのはそれだけか?」

「え、えっと……その、肩、痛いんだけど……!」

「言いたいのはそれだけか、って聞いてるんだけど」

「は、はい……」


 俺が丁寧に質問をしたらなぜか敬語になったが、どうでもいいな。


「じゃあ答えてやる。霊那はそういう意味でも重くないし、たとえお前から見て重かったとしても問題ない。なぜならお前は霊那の彼氏じゃねえし、霊那は俺の彼女だからだ」

「っ……」

「それと俺にとって霊那よりいい女の子なんてこの世にいない。霊那と同等になる可能性があるのは霊那が産む俺達の子供だ。俺と霊那の子だ、絶対に可愛いだろうな。だってあのめちゃくちゃ可愛い霊那の子だ。知らないだろ? 霊那は手を繋ぐ時にいつも手汗を気にしてさり気なくスカートで掌を拭うのを。掌を拭う前に俺が手を繋ぐとめちゃくちゃ顔を赤くするのを。あれが可愛くて俺は毎回霊那が掌を拭う前に手を繋ぐんだがな。可愛いところをあげればキリがないからこれくらいにしとくか」


 俺がこんなに懇切丁寧に説明してるのに、なぜこいつは顔が青ざめているのだろうか。


「他に何か聞きたいことはあるか? 言いたいこともあるか?」

「な、ないです……ごめんなさい……」

「そうか。わかってくれたなら俺も嬉しいよ」


 俺はそいつの肩から手を離す、ちょっと強く握りすぎていたかもしれないが、まあいいか。


「悠くん!」

「おっ、霊那」


 そいつとの話が終わったタイミングで、霊那が戻ってきた。


「待たせてごめんね」

「ああ、大丈夫だ。じゃあ帰るか。じゃあな、また明日」

「あ、ああ、また明日……」

「じゃあね」


 クラスメイトの二人に別れを告げて、俺と霊那は教室を出た。


「何を話してたの?」

「霊那が俺にとってどれだけいい女かってのを力説してたんだ」

「へっ!? そ、そんな、悠くん、恥ずかしいよ……!」


 顔を赤らめながらモジモジする霊那、可愛い。



「め、めっちゃ怖かった……死ぬかと思った……! 肩、折れてないよな?」

「悠にあんなことを言うから。僕は悠と安喰さんと同中だから知ってるけど、あの二人はあの二人だから成り立ってるんだよ」

「あ、安喰さんがヤバい人って思ってたけど、悠もヤバいんだな……」

「冷静に考えて、安喰さんと四年くらい付き合ってる悠が、普通だと思うの?」

「そ、そうだな……」

「あとまず普通に失礼でしょ、人の彼女を悪く言うなんて」

「い、いや、俺は一応、悠のためだと思って……」

「余計なお世話って言うんだよ、そういうの」



 俺と霊那は学校を出て、手を繋いで帰り道を歩いていた。

 手を繋ぐ時、霊那はいつも通りスカートで手を拭おうとしてたけど、その前に俺が手を取ったら恥ずかしそうに顔を赤らめていた、可愛い。


「今日のお弁当、どうだった? 美味しかった?」

「もちろん美味しかったぞ。俺の好物ばっかりだったしな」

「ふふっ、よかった。ハンバーグは前に好きって言ってたし、だし巻き卵もいつも朝ご飯で美味しそうに食べてるのを見てたし、唐揚げは初めて作ったけど悠くんはお肉系は好きだもんね。彩的にトマトを入れたかったんだけどトマトは苦手っていうのは知ってたしね。お魚も今度入れたいんだけどシャケが一番無難だよね。ああだけど食物はいいなぁ、悠くんに食べられてその血肉になっていくんだもんね。私も悠くんに食べられて血肉になりた――」

「霊那と結婚したらあんな美味しい料理を毎日食べられると思うと、すごい嬉しいな」

「ふぇ!? そ、そんな、悠くん、結婚なんてまだ早いよ……!」

「そうか? 俺達は今年十七歳だし、来年には俺も結婚出来る年齢になるから、もうすぐじゃないか?」

「えっ、け、結婚出来る歳になったら、すぐにしてくれるの!?」

「ああ、もちろん。だが少し申し訳ないのが、俺は早生まれだから誕生日が遅いんだよなぁ」


 本当にそれはとても残念だ。

 高校三年になってすぐではなく、籍を入れるのは卒業式近くになってしまうだろう。


 だけど俺は早生まれだから霊那と同じ学年で出会えたことが出来たし。


 あと数ヶ月でも遅れていれば、会うこともなかったかもしれないと思うと、早生まれでもよかったとも思えるな。


「じゃ、じゃあ、来年度の悠くんの誕生日に……!」

「ああ、正確には二年後になるけど、籍を入れような」

「うんっ……!」


 霊那は今日一番の可愛らしく嬉しそうな笑みを浮かべて、頷いてくれた。



 俺と霊那は中学が一緒なので、家は意外と近い。

 まあ近いといっても、歩いて二十分ほどの距離だが。


 だから俺はいつも学校からの帰りは、先に霊那の家に寄ってそこで別れて家へと帰る。


 今日も霊那の家の前まで着くと、そこには霊那のお姉さんがいた。


「あっ、お姉ちゃん」

「ん? あ、れいちゃん、おかえりなさい。それに悠ちゃんも」


 ニコニコと笑う霊那の姉、安喰神奈さん。


 俺と霊那の二個上で、大学一年生だ。


「こんにちは、お義姉さん」

「うん、こんにちは。なんかもうその呼び方も慣れちゃったなぁ」


 すでに霊那の家に俺は何回も言っているので、ご家族とも顔を合わせている。

 神奈さんは霊那と同じく黒髪だけど、波打っていて少し癖のある髪質だ。


 ふわふわとした髪の感じが、神奈さんの性格と似ている気がする。


「悠ちゃんも大きくなったねぇ」

「もう高校二年なので」

「初めて会った時は私よりも小さかったのに、もう見上げないといけないわね」


 今は俺の方が頭一つ分、身長が高い。


「ふふっ、昔はこうして悠ちゃんの頭を――」


 神奈さんは俺の前に立ち、見上げながらも俺の頭に手を伸ばして――その腕を、霊那が勢いよく掴んだ。


「お姉ちゃん……? 何しようとしてるの?」

「撫でてあげようとして、いつもこうやってれいちゃんに止められてたわね」

「お姉ちゃんは私から悠くんを奪おうとするの? それだったらお姉ちゃんでも容赦しないよ? 絶対に死んでも渡さない。悠くんは私のもので私は悠くんのものだから。それでも奪おうとするならしょうがないけどお姉ちゃんを私の手で――」

「霊那、お別れのハグするか。ほら、ぎゅー」

「え、あっ……! う、うん、ぎゅー……!」


 俺が霊那を正面から抱き締めると、霊那は顔を真っ赤にして抱き締め返してくる。

 はぁ、可愛い、小さくて抱き心地がいい、早く抱き枕にして一緒に眠りたいなぁ。


「うふふっ、お熱いわね」

「……お義姉さん、あまり霊那をからかわないでくださいよ」

「はーい、未来の弟ちゃんに怒られちゃった」


 何を考えているのかイマイチわからない人だ、まったく……。



 そして霊那とお義姉さんに別れを告げ、俺は家へと帰った。


 帰るとすでに朱音が学校から帰っていた。


「おかえり」

「ただいま」

「風呂掃除お願い」

「了解」


 リビングを通る際、そんな会話をして俺は自室へと向かった。

 そして言われた通り風呂の掃除をして、自室で適当に過ごす。


 自室にいる間にも、何度か霊那からメッセージが来ていた。とても可愛らしい。


 夕飯までの時間、俺は家で出来る仕事をしていた。


 将来、霊那と暮らしていくために、しっかり稼がないといけないからな。

 今やっているのはざっくり言えば、プログラミングの仕事だ。


 学校終わってから夕飯までの時間くらいしかやっていないが、すでに親の扶養は軽く外れるくらい稼いでいる。

 お金もほとんど使わないので、盛大な結婚式が出来るくらいには貯まっているだろう。


 今日分の仕事を終えて、夕飯を朱音と一緒に食べる。朱音の料理もとても美味しい。


 しばらくリビングで朱音とテレビでも見ながらゆっくりして、メッセージアプリで霊那とも話す。


 とても幸せな時間だ。



 そして軽く筋トレをした後、お風呂に入る。

 いつも通り、三十分ほどゆったりと浸かる。


 湯船から出て身体をタオルで拭いていると、スマホが揺れた。


 画面を見て、俺は思わず笑ってしまう。


「今日は、一〇〇件を超えたか」


 そう呟きながら、俺は次に電話がかかってきたら出る準備をした。


 俺の彼女はずっとヤミかわいいな。






――――――――



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ヤンデレ彼女だけど、愛を伝えまくるとタジタジになって可愛いから問題ない shiryu @nissyhiro

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