第十話 Game time
とてつもないスピードで進展した恋のせいで、リビングには甘いような重いような、どんよりとした息苦しい空気が流れてしまっていた。
「ねぇ、ゲームしよっか」
ソファの背もたれに両腕と頭を預けながら心亜が言った。空気を変えようとしているのだ。
「――なんのゲーム?」
「ぜんっぜん決めてないっ」
心亜はへへっと笑う。柊真はゲーム機を取りだし、テレビに接続した。柊真の家にはコントローラーが四つある。今回は二人で遊ぶので、そのうちの二つをゲームに接続する。
「じゃあ……レースゲームでもしようか」
柊真が取りだしたレースゲームのカセットを見て心亜はこくりとうなずく。Aボタンを押して起動するとテレビから陽気な音楽やボイスが流れる。
◇ ◇ ◇
「いやー負けたか〜!」
四戦目が終わり、心亜が勢いよくソファに座り直す。
「柊真くん上手いね〜!わたしには扱えない技術使っててビックリ!」
心亜は柊真を褒める。柊真は「そんなことないよ」と言い、少しだけ照れる。
すると心亜が「疲れたから交代するね」と言って目をつぶる。三秒ほどすると、青色の瞳がパッと表に出てきた。
「え!?私ゲームとかできないよぉ……」
咲良はおどおどする。様子から察するに、心の中の心亜に喋っているようだ。柊真はそんな咲良に気を使い、遊ぶゲームを比較的簡単なミニゲームがたくさん入ったパーティゲームに変更する。
「ご、ごめんね、楽しんでたのに」
「咲良が楽しめないと意味が無いよ。楽しむのがゲームだから、ね」
柊真はそう言いながら操作を続ける。ゲームのスタートと同時に表示される操作方法を二人で読み、それぞれがやるべき操作をやる。優しく甘い時間が過ぎる。
「そこは……そうそう!上手いじゃん!」
「そ、そうかな……えへへ」
先程とは逆に柊真が褒める。咲良は少し照れていた。
◇ ◇ ◇
三十分の時が経ち、ゲームが一通り終わった。すると咲良は「楽しかった〜」とソファにもたれかかった。
「でも、私だけ楽しんでいいのかな……」
咲良はぼそりとそう呟く。その表情はどこか悲しさや申し訳なさを感じさせるような、そんな雰囲気だった。
「あ、チアキちゃんが出たがってるから変わるね」
「え?変わらなくていいのに」
「はぁ!?なんですって!?」
柊真は別に変わらないで楽しんでもいいんだよ、という意図で言ったのだが、赤色の瞳のチアキは悪い意味の本音をこぼされたと勘違いし、いつも通り憤慨する。
「ごめんごめん!悪気はないから!チアキの遊びたいゲームは!?」
「……そんなの格闘ゲーム一択でしょ!ボッコボコにしてやるわ!」
チアキの瞳が殺意のあるものに変わる。柊真はそれに脅されながらカセットを入れ替え、キャラクター選択画面までぱっぱと進んでいく。
柊真はよく使う剣士のキャラを、チアキは丸っこい可愛いキャラを選んだ。ルールは先に相手を三回倒した方が勝ち、というスタンダードなルールだ。
結果は柊真のストレート勝ち。チアキは倒すことはおろか、ダメージもほとんど与えられなかった。
「……アンタ強くない?」
チアキが先程までとは違い目を見開きながら柊真を見つめる。柊真は少しだけドヤ顔でチアキを見る。
「……っ!」
その表情にチアキは少しムカッとする。しかし、すぐに感情を落ち着けて柊真に質問する。
「うぅぅ……ね、ねぇ、あの、守るやつってどうやるの…?」
「守るやつって……ガードのことか?このボタンを押せばいいよ」
柊真はそう言ってコントローラーのボタンをポチポチと押した。
「あと、必殺技ってどうやって使うの?」
「このボタン使えば行けるよ。練習モードで試して見よっか」
柊真は練習モードに切りかえ、チアキにみっちりと基礎を叩き込む。このボタンを使えばコンボが発生するだとか、ちょうどいいタイミングでガードすれば一切ダメージを受けない、などの豆知識を教えこむ。
「……よし。じゃあ実践やってみようか」
スリー、トゥー、ワン。カウントダウンが終わり、二つのキャラクターが同時に動き出す。チアキの動きが、先程までとは明らかに違う。基礎的な技術はカンペキ。あとは細かい知識さえ入れれば中級者の仲間入り、と感じるほどの実力になっていた。
「このっこの!あーなんで今ので倒せないのよ!!」
相変わらず怒ってはいたが、なかなかにいい勝負を展開する。倒して、倒されて、また倒して。格闘ゲームの醍醐味を、二人でじっくり楽しむ。
結果は三対二で柊真の勝ち。しかし、最終的な二人のダメージ数はほぼほぼ同じ。攻撃のタイミングが少しでも違えば結末は変わっていたかもしれない。
「悔しい悔しい!またリベンジするから待ってなさいよ!」
「うん、楽しみにしてる」
柊真は優しくそう言い、心亜は不貞腐れたように目をつぶった。柊真は一息つく。
「……ふぅ。ようやくボクの時間か」
それもつかの間、咲良の目が黄色になる。美宙だ。
「なんかボクのことないがしろにしてない?ほか三人とは楽しそうに遊んでるのにさ」
「確かにそうかも……ごめん」
美宙は「別に良いけどね〜」と言いながらゲーム機を握る。
「何やりたい?」
「リズムゲームで盛り上がろう!」
柊真は右手で軽くサムズアップをしながらカセットを変える。そして曲選択画面へと一気に向かう。
「なにやりたい?」
「これやりたい!」
柊真は美宙に曲を選択させ、次に難易度を選ぶ。二人とも一番難しいものを選んだ。
◇ ◇ ◇
結果はどちらもクリア。しかし、スコア的には美宙の方が高かった。
「いやー美宙上手いな!音楽とかやってたの?」
「いや、特にはやってない?と思う!ま、これも才能ってやつ?」
そう言って先程ゲームでやった曲を口ずさむ美宙。柊真は優しい歌声を聞いて左右にゆらゆらと揺れる。
こんな感じの時間が過ぎてもう時刻は六時半。それに気づいた柊真は夕飯のことを思い出す。
冷蔵庫に何かあったっけ!?
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