005奴隷の1日と神様の1日
シロは大きな音に弱い。
特に隣の家に借金取りらしい人が来てドアをどんどん叩くときは、とんでもなく怯える。
(ドンドンドン)が始まると、狼狽えて部屋の中をうろうろして右に左に挙動が不審になる。
隣の家(シロの家)の借金取りがドアをたたく音だろう。
そのうちベッドに頭から突っ込んで枕をかぶって、全ての情報を遮断する。
この状態の時はどんなになだめようと思っても落ち着くことはない。
借金取りの(ドンドンドン)はせいぜい15分くらいなので、黙ってやり過ごす。
相変わらず隣は誰もいないようだ。
シロの両親(?)が帰った様子も感じられない。
夜にベランダから隣を覗いてみても電気がついていないし、そもそも人の気配がしない。
「やっぱり夜逃げか・・・」
それ以外は割と規則的な生活をしている。
朝は7時ごろ起きる。
安いアパートなので、周囲の人が起きたり、動きだしたりする生活音で目が覚めるみたいだ。
シロは、テレビは音が大きいとダメみたいだし、バラエティみたいに騒がしい番組もダメみたいだ。
朝の情報番組はつけているけれど、見ていない感じ。
視界には入っているけれど、その情報は脳には到達していないのだろう。
朝ごはんは俺が作っているが、朝起きてからシロは大半を壁とベッドの隙間に体操座りで座って過ごす。
座っているというよりも「嵌っている」感じだ。
1か月たってやっと椅子に座ってテーブルでご飯を食べることができるようになった。
「かみさま、いただきます」
シロは俺のことをかみさまと呼ぶ。
俺みたいなやつが『かみさま』のはずないのに。
「ああ、ゆっくりよく噛んで食べな」
今日のメニューはトーストと目玉焼きだ。
シロはあまりスプーンやフォークを使わない。
ご飯を食べるときに床で食べさせられていたのかもしれない。
だから、俺は特に強制しない。
ただ、熱いものや大きいものは食べにくいだろうから、スプーン、フォーク、ナイフを使うことを促すこともある。
トーストなら食べやすいだろう。
食べ終わったら皿をキッチンに持っていくことを覚えた。
ちゃんとできたら頭をなでてやる。
今日も目を細めて喜んでいる。
なでなでなでなでなで。
「にゃあ」
『にゃあ』がでた。
面白いのは、シロは頭を撫でられるのが好きみたいで、撫でている間はおとなしい。
目が『ほわわぁ』としている。
ずっと撫でていると果てしない。
いつまでもおとなしくしている。
今日も5分は撫でていたのでさすがに疲れたのでやめた。
「かみさま、ありがとうございます」
頭を撫でたことに対するお礼だろうか。
その後はまたあの隙間に嵌って過ごす。
恐らく隣の家では厳しい環境で暮らしていたのではないだろうか。
隣の住人の生活をできるだけ邪魔しないように、1か所にずっと座っていたり・・・
想像したら悲しくなってきた。
自分の子供ではないのだろうか?
可愛くないのか。
またシロの頭を撫でていたら、腰のあたりに抱き着かれた。
愛情に飢えているのかもしれない。
俺はシロを優しく抱きしめた。
*
俺が朝起きるのは7時くらいだろうか。
一応大学があるけれど、元々通信制の大学なので通学はない。
パソコンでログインして、動画を見るのが授業だ。
朝は適当に食べることが多かったが、シロが来てから朝食もちゃんと準備するようになった。
自分一人の時はパンを買っても目玉焼きなど準備したことなんてない。
それどころか、トーストにすることもなく白いままの食パンを食べることもしばしばだった。
今日は目玉焼きを焼いて、トーストに載せた。
シロはトーストをおいしそうに食べた。
まだ椅子に座って食べることに『後ろめたさ』があるみたいだ。
椅子に座ると目が泳いでいる。
「そこはシロの席だから堂々と座っていいんだよ」
顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
朝はテレビを見る。
特に見たい番組があるわけじゃないけれど、何となく情報番組を見ている。
9時になると途端に見るものが無くなるので、掃除や洗濯を始める。
洗濯は嫌いなので週1回になるようにしている。
昼には昼ご飯を作る。
当然シロと一緒に食べる。
そして、昼から学校の授業を受け始める。
通信制の大学なので、自分の好きな時間に動画を見て授業を受ければいい。
のんびり動画を見て終わるのならば楽でいいのだけれど、動画の最後には毎回試験がある。
多くの場合8問出て選択式で回答する。
すぐに採点されて、何点か分かるし、3度までやり直しができる。
それでも毎回8点は意外と難しい。
8点取るためには授業の動画をしっかり見るしかない。
この動画を見るときは結構集中している。
シロはこの間一切俺の邪魔をしない。
基本的に俺は外に出ない。
買い物にも行かない。
食材の調達などはネットスーパーでまとめて買う。
良い時代になったものだ。
シロが部屋の中でベッドと壁の隙間以外のところにいることがあっても、チャイムが鳴ると『びくっ』として、ベッドと壁の隙間に逃げてしまう。
トラウマみたいなものがあるのだろうか。
今後玄関先に置いておいてもらうようにしようか・・・
シロが驚かないように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます