006奴隷の寝床
シロは基本的にフローリングの床で寝る。
絶対痛いと思う。
ただ、俺の部屋は8畳ほどのワンルームなので、ベッドは1つしかない。
ソファなんてものは置いていない。
シロにベッドを譲ると自分が床に寝ることになる。
もちろん、最初のうちはベッドで寝るように言ってみたが、頑なに床で寝ると主張していた。
2人ともベッドに寝るというのは、やっぱりアレなのでそれ以上は言ってないけれど・・・
でも、やっぱり女の子が固いフローリングで寝ているというのは気になるので聞いてみることにした。
「シロ、フローリングってやっぱり寝る時痛くない?」
「ずっと床で寝ていたので、全然平気です。今は広いので嬉しいです」
嬉しいのかーい。
「でも、起きた時背中が痛いとかない?」
「背中は火傷が痛いときは仰向けで寝られなかったのですが、今はどこも痛くないです」
涙が止まらねぇ。
普通寝るときは床が固いと起きた時に身体が痛いもんなんだよ・・・
さすがに一緒のベッドで寝るわけにはいかないから、せめて布団を買うことにした。
「シロ、布団を買おうと思うんだけど、あったら使ってくれる?」
「布団・・・そ、そ、そんなの寝たことがないので、わ、わ、分かりません」
もう、セットで5000円のじゃなくて、2万9800円のにしておこう!
フェザーのやつ!
夏涼しくて、冬温かいやつ!
俺の布団は1万9800円だけど、もう、2万9800円のをポチってしまう。
*
いつものように宅配便のピンポンにびっくりした。
お詫びとばかりに、段ボールを開けて中身を出して見せた。
シロは珍しくわくわくしているみたいだ。
通常注文するものよりも大きかったからかもしれない。
「じゃーん」
「これなんですか?」
白い羽根布団は丸まって透明のバッグのような袋に入っている。
「開けてみて」
「はい」
「これは・・・布団ですか?」
「そう」
「ふかふかで良い布団ですね」
「そうか。これはシロの布団だよ」
「え!?」
「床で寝たら身体が痛いだろ?これからは布団を使ってよ」
「!!」
「・・・」←シロ固まっている
「・・・」←まだ固まっている
「・・・」←まだまだ固まっている
「シロ、いい暮らしはさせてあげられないけど、普通は何とかなるかも。これまでマイナスだった分を少しずつ取り戻そう」
シロは両手のひらを顔に当てて下を向いて動かなくなってしまった。
泣いているのかもしれない。
「これはシロ専用の布団だから、寝るときには自分で敷いて、起きたら畳むんだよ?晴れた日には干して、シロが世話をするんだよ」
シロは肩を震わせていた。
布団が嬉しかったのかな。
こんなに喜んでくれるのならば、3万円のにしてよかった。
とりあえず、落ち着くまで頭を撫でてやった。
*
「かみさま、布団を干していいですか?」
「ああ、先に手すりを雑巾で拭いた方がいいかな」
「はい、手すりを拭きます」
*
「かみさま、布団はどれくらい干したらいいんですか?」
「まあ、日が当たる間干して置いたら間違いないだろう。2~3時間でいいって話もある」
「はい。2~3時間、はい」
*
「かみさま、布団は叩いた方がいいのですか?」
「昔から布団はパンパンするイメージだけど、実際叩くと中の綿とか羽根が痛むから表面の誇りを払う程度で十分だ」
「はい」
*
「かみさま、この布団折り曲げても大丈夫でしょうか?」
「布団は畳むときに折り曲げるものだ。全然問題ない」
「はい」
*
「かみさま、布団って何時になったら敷いていいんですか?」
「寝るときに敷いてくれ。あまり早いとご飯を食べるときに汚してしまうかもしれん」
「はい」
*
シロは茶色くなったシャツ以外の自分の持ち物がない。
布団がすごく気に入ったみたいだ。
こんなに喜んでくれるなら、いい布団を買っても全然惜しくない。
この日は食後にシロが自分で布団を敷いた。
「かみさま、布団に寝たら布団が汚れないですか?」
「シロが風呂に入れば、シロもきれいだから布団は汚れないよ。ずっと使って汚れてきたら洗ってやるから好きなだけ寝ろ」
「はい、ありがとうございます」
この日シロは掛け布団を抱き枕にして敷布団の上で寝ていた。
正直、掛け布団はこの季節まだ暑いと思う。
それでもこんなに嬉しそうな顔が見れるなら、本当に布団を買ってよかった。
ただでさえかわいいのに、ほんとに天使みたいな寝顔だ。
世間一般的に見ても、シロの顔は整っている。
肌の一部は焼けているけれど、そんなの俺には見えていない。
シロが一段と愛おしくなってしまった。
ただ、そのことはシロには言えないでいた。
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