第12話 戦力補強

 周辺の賊の討伐と県令の身辺調査を開始してから一月後。


 まず、賊の討伐に関してはかなりの成果を得られた。

 何より、賊共はかなりの金銭と兵糧を蓄えており、それらを接収したことで城がそこそこ・・・・潤った。


 また、賊と戦うことで兵士の熟練も上がり、そこそこ・・・・使えるようになったというのは将軍の談だ。

 捕えた賊も、命を助けてやる代わりに戦の際は最前線で戦う兵士として吸収した。これにより、こちらの兵士は傷まない。


 県令の身辺調査については、案の定、調査に向かった役人の一部……いや、半分は戻ってこなかった。

 おそらく、県令に始末されたのだろう。


「はは……うちの将軍を舐め過ぎ・・・・だろ」


 当然、俺はこの県令共を許すつもりはない。

 むしろ、俺達が粛清するきっかけを与えてくれたようなものだ。


「ということで将軍。賊の討伐もひと段落しましたので、今度は役人が戻ってこなかった県令の粛清に参りましょう」

「う、うむ……相変わらず容赦ないな……」


 いやいや将軍、そんなに引かないでくださいよ。

 そもそも、俺からすれば将軍に弓引くような真似をした時点で、車裂きにしてやるべきだと思いますけど。


 おっと、車裂きといえば。


「将軍。賊を討伐して得た軍資金、この俺が使ってもいいですか?」

「む? そもそもこの武定の内政を担っているのは子孝なのだから、わざわざ我の許可などいらぬだろうに……」

「はは、何を言っているのですか。ここの太守は将軍なのですぞ?」

「う、うむ……」


 そうとも。こういった上下関係はしっかりしておかないと、下の者にも示しがつかない。

 ただでさえ、前太守の下でぬるま湯に浸かっていた連中なんだ。その辺、きっちり分からせてやらないと。


「それで……子孝は何に使うつもりなんだ?」

「はい。ちょっと戦車を増やそうかと思いまして」


 そう……賊退治でここの兵士達の熟練が上がったところで、元々弱かった兵士に、これ以上の戦力を見込むのは難しくなってくる。

 ならば、弱いままでも・・・・・・強くなれるような……そんな方法はないかと考えた時、思いついたのが戦車を用意すること。


 これならば、戦になった際にも遠・中・近と、いずれの距離においても対応可能となるし、何より、歩兵に対しては圧倒的に強い。


 異民族の連中は、騎乗しながら正確に弓を撃つような連中だ。

 ならば、こちらもそれに対抗できるようにしないとな。


「ふむ……だが、戦車は金がかかるし、さすがに蘇卑や姜氏の者達のような騎馬兵を相手にする場合、戦車では機動力の面で不利だぞ?」


 ……本当に、こういった軍事面に関しては、将軍は本当に優秀だな。

 確かに将軍の言う通り、戦車は金食い虫だ。

 一台当たりにかかる費用もけた違いだし、車輪はすぐに駄目になって、頻繁に交換が必要になるからな。


 そして、機動力。

 はっきりと言ってしまえば、戦車は小回りが利かない上に、三人で運用するから戦車本体の重みもあって馬に負担が掛かり、騎馬と比べてとにかく遅いのだ。


 だが。


「我々に限っては、そんなことも言ってはいられません。何より、まともに騎乗できる兵士が何人いるのかという話ですよ」

「むむ……」


 そうなのだ。歩兵としての熟練すら足らない兵士達が、騎乗して戦うなど、今の時点ではとても望めない。

 ならば少しでも対抗できるようにしつつ、最低限歩兵に対してだけでも優位性を保つとするならば、戦車を選択するしか方法がないのだ。


 それに……一つ、俺に考えがないわけでもないからな……。


「……子孝の言いたいことは分かった。とにかく、やってみろ」

「はっ! ありがとうございます!」


 よし、将軍の許可は取りつけた。

 次は職人を多く確保せねばな。


「あとは、賊の残党を加えたとはいえ、未だ兵士の数が足りません。なので、月城で兵士の募集をしようと思います」

「うむ、それがいいだろう。好きにしろ」

「はっ! では、早速取り掛かります!」


 俺は恭しく一礼すると、将軍と別れてすぐに仕事に取り掛かった。


 ◇


「邪魔するぞ」


 俺は鍛冶職人を尋ねると。


「へえ……」


 顔を出した職人らしき男が、訝し気な表情を浮かべながら俺を見る。


「ああ、俺は董将軍と共に先月この武定に配属となった、補佐官の“徐子孝”と申す。実は、お主に折り入って作ってもらいたいものがあってな」

「お、お役人さんですかい?」


 自己紹介をした途端、男は目を白黒させた。

 はは……まあ、将軍と一緒に来たと聞けば、下手な対応はできないと踏んだのだろうな。


「ああ。それで、作ってもらいたいものなんだが……」


 俺は男に、製作するものについての簡単に説明する。


「では、戦車を作るってことですかい? だったら、俺じゃなくて向こうの職人に頼んだほうが……」

「いやいや、できる限り戦車の耐久を上げるために、車軸を金属に変えたいのだ。そうすれば摩耗も減り、壊れにくくなるからな」


 そう……俺が考えたのは、車軸を金属にし、さらには規格を統一することによって、量産しやすい体制を作ること。

 そうすれば、同じものだけを作るので技術の均一化が図られるし、何より費用がかさまない。


「へえ……ですがこれじゃ、逆に戦車一台当たりの値段がけっこうかかりますよ? おそらく、倍はするかと」

「だが、一度作りさえすれば、戦車三台分よりも長持ちすることは間違いない。となれば、結果的に費用も抑えられる」

「はあ……」


 はは……半信半疑、といったところか。

 確かにこれまで、こんなことをしようだなんて考えた奴はいないからな。


「とにかく頼んだよ。試作品ができたら、政庁まで持ってきてくれ」

「へえ」


 よし、車軸に関してはこれでいい。

 次は。


「兵士の募集、ですか……?」

「そうだ」


 政庁に戻った俺は、早速県令の元から無事に戻ってきた役人達に兵士を募集するよう指示をする。


「では聞くが、今、この武定にいる兵士の数は何人だと思う?」

「え、ええと……確か、千人だったかと……」

「そうだ。そのたった・・千人で、三国を相手にしないといけないのだぞ?」


 前の太守がどうやって三国相手にやりくりをしてきたのか知らないが、たかが千の兵士で三国を相手になど、できるわけがない。

 せめてあと二千は追加して、三千は確保しておきたいところだ。


「で、ですが、そんなに兵士を囲っても、今のこの城の財政では養うことは難しいと思われますが……」

「その通りだ。だが、今後この武定の収入は上がる予定だから心配するな」

「はあ……」


 俺の説明に要領を得ない役人達は、全員、不思議そうな表情を浮かべる。

 まあこの者達は、県令の元から無事に戻ってこれた者達だ。つまり、県令が県令として機能しているから、理解できないのだろう。


「はは……まあ、見ているといい。あと二、三か月で、この武定は劇的に変わるはずだからな」


 ということで、早速財源確保に向かいますか。

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