第11話 立て直しに着手
「ふむ……確かに」
将軍が前任の太守から印を受け取り、確認する。
「では董将軍、私は
「うむ、気をつけてな」
前任の太守は
「ふう……将軍、よく
「……まあ、な」
いや、二人のやり取りを見ていて肝を冷やした。
とはいえ、将軍が怒るのも頷けるというものだ。
なにせ、この武定城の中は酷い有様だったのだから。
民達が困窮に
これじゃあ、武定周辺で賊が
「それで……
将軍は眉根を寄せながら、俺に尋ねる。
はは、『
「そうですねえ……やはりここは、将軍が役人や兵士共に
「その通りだ! この我が来たのだから、腐った兵士共を叩き直してくれるっっっ!」
興奮した将軍が、手に持つ方天画戟の石突を床に叩きつけると、無意識に【飛将軍】を使ったものだから、穴が空いてしまった。
「はっは。では拙者は、兵士に招集をかけて参りましょうぞ」
「俺も、役人に政庁前に集まるように触れてまわりますか」
俺と漢升殿は、とばっちりを受けてはかなわぬと、そそくさと将軍から離れて役人と兵士を呼び集めに向かった。
そして。
「貴様等! 我は今日からこの武定の太守に赴任した、“董白蓮”だ!」
「「「「「っ!? は、はっ!」」」」」
将軍が放つ殺気に、集められた役人と兵士は震えながら直立不動で返事をした。
「よいか! 前の太守はどうだったか知らぬが、この我は甘くない! 与えられた仕事もできぬような者は、我の配下に必要ない! 即刻立ち去れ!」
はは……まあ、そんなこと言われたからって、この場から立ち去れるような奴はいないよなあ。
「まあまあ将軍、彼等も色々と事情があるのでしょう」
俺は将軍の傍に寄り、そう言ってなだめる
「む! そのような甘いことを言ってどうするのだ! 武定の周辺には、蘇卑と姜氏が、そして崔がいるのだぞ!」
「だからですよ。ここは彼等の汚名を挽回するために、将軍自ら兵士達を鍛えてやるべきでしょう」
そう告げると、将軍は口の端を持ち上げた。
「ふふ! 子孝の言う通りだ! これから三国と渡り合うためにも、昼夜を問わず鍛えてやる! 覚悟しておけ!」
「「「「「っ!? は……はは……っ!」」」」」
はは。兵士達、顔を真っ青にしているな。
「さて……役人の皆さん」
「「「「「っ!?」」」」」
将軍に一括されて震えあがっている兵士達を見させられた後だから、役人共も冷や汗を流している。
「将軍は
「「「「「………………………」」」」」
俺の言葉の意味が分からず、役人共はおそるおそるこちらを
「お前達に
「「「「は、はっ!」」」」」
もっと無理難題を言われると思ったんだろう。役人共は、明らかに安堵の表情を浮かべていた。
はは……この程度で終わりなわけがないだろう。
むしろお前達の命が、あとどれほど残されているかな?
「……子孝、ほどほどにな……」
いつの間にか俺の顔を
◇
「ふむ……お嬢……将軍、兵士達は使い物になりそうですかな?」
「いや、まだまだだな。これでは三国と相対した時点で、
漢升殿の問い掛けに、将軍はそう言って
将軍が太守に赴任してから十日が過ぎ、毎日兵士達を鍛えているものの、思うようにいってはいないようだ。
「子孝のほうはどうだ?」
「はは、とりあえず必要な情報は手に入れましたが……状況は最悪ですね……」
そう言って、俺は肩を
だが、実際に役人共から上がってきた内容は最悪の一言に尽きる。
なにせ、軍資金は底を尽きかけ、兵糧は籠城すれば一か月ももたない量しかない。
城の住民達から徴収しようにも、そもそも住民達は貧しすぎて日々の食い物にも困っている始末だ。これじゃ、どうにもならない。
「ふむ……では、どうする?」
「そうですねえ……とりあえずは、俺達が
そう……役人共が上げてきた情報を見ると、結構な数の賊が武定周辺にいるようなのだ。
というか、ここまで賊共を野放しにしているのもどうかと思うが、この際好都合だ。
だって、将軍が兵士を率いて賊を討伐すれば、賊が蓄えている金銭や兵糧を押収でき、しかも兵士の実戦訓練にもなる。まあ、一石二鳥だな。
「ですので将軍、期待していますよ」
「ふふ……相変わらず、悪知恵が働くな」
「一言余計です」
さてさて……軍資金や兵糧に関してはそれほど期待できないものの、それでもましではあるだろう。
その間に俺は、役人に指示をして各県令の身辺調査でもさせるとするか。
その結果、役人共は消されるかもしれないがな。
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