第7話 賊退治
「それで漢升殿は、
「お任せくだされ」
力強く頷く漢升殿に軽く頭を下げ、俺は屋敷の外に出てまっすぐに隣の家を訪ねた。
「あ! 子孝様!」
「はは……こんな夜分にすまないねえ……」
「いえ! どうぞこちらへ!」
そう言うと、真蘭が家の中に通してくれた。
「……とと、ひょっとして食事中だったのか? それは悪いことをしたな……」
机に乗っている数々の食べかけの料理を眺めながら、俺は頭を
「い、いえ! もう食べ終わるところでしたので!」
すると真蘭は、慌てて皿と器を片づけ始めた。
「い、いやいや、こんな時間に押しかけた俺が悪いのだから、気にせず食事を続けてくれ」
「で、ですが……分かりました」
俺が恐縮しているのを悟ったのか、真蘭は皿と器をまた机の上に戻した。
「そ、それで、子孝様はどうしてこの家に?」
「あ、ああ……ほら、昼間の賊の件だよ」
「あ……」
ようやく俺が来た理由を察した真蘭は、短く声を漏らした。
「それで……俺達は明日、この里を発つふりをして、そのまま賊が巣食う岩山へと向かうつもりなんだが……まあ、いくら将軍が強いとはいえ、こちらは三人。かなりの数がいる賊相手に、苦労すると思うのだが……」
そこまで言うと、俺は真蘭に向けて値踏みするような視線を向けた。
それこそ、下衆な男が
「……そ、その……皆様が賊を退治された暁には、
真蘭は傍に寄り、俺の胸にそっと身体を預ける。
ふむ……昼間も思ったが、真蘭の身なりは悪くない。それが、真蘭の美しさを引き立たせている。
「はは。では、明日は賊を皆殺しにして、里へと凱旋するとしよう」
「っ! ど、どうぞよろしくお願……「ただし、先程の約束は守ってもらうぞ?」……も、もちろんです!」
俺は勢いよく頭を下げようとした真蘭を制止して念押しをすると、真蘭は瞳を輝かせた。
そして。
「そ、その……皆様の勝利は信じておりますが、もしよろしければ、明日はどのようにして賊を滅ぼすのか、教えていただけませんでしょうか……?」
はは……真蘭はやはり不安なのか。
普通はそんな血なまぐさい話、年頃の娘からしたら聞きたくもないはずだからな。
「はは、心配するな。我々が負けることは万に一つもない。だが、そうだなあ……明日は将軍の武を活かし、ただ正面から賊の根城に切り込むのみ。あとは我々が、逃げ出そうとする賊を討ち取るだけだとも」
「そ、それを聞いて安心しました……では、ご武運をお祈りしております……」
「うむ……俺も、
「はい……」
頬を朱に染める真蘭に見送られ、俺は家を出る。
「ふう……こんなところ、か……」
俺は振り返って家の中へと戻って行く真蘭を眺めながら、胸元に残る彼女の残り香を払ってから屋敷へと戻った。
◇
「うむ。では、世話になったな」
次の日の早朝、里の入口まで見送りに来た里正に、将軍が礼を述べる。
「いえいえ、またいつでもお立ち寄りくださりませ」
「む。そうか! なら、これからは頻繁にこの里に来ることにしよう! なあ、子孝?」
「そうですねえ。豪勢な食事に酒と、かなり居心地がよかったですからねえ」
口の端を持ち上げながら話を振る将軍に同調し、俺は相槌を打った。
するとどうだろう。先程まで嬉しそうだった里正の様子が打って変わり、今度はこの世の終わりのような表情を浮かべた。
「ふふ……では行こうか」
「「はっ!」」
将軍の後に続き、俺達は里を出る。
里正のほか、わざわざ来てくれた真蘭の
すると。
「うむう……しかし、このような扱いを受けたのは初めてかもしれぬな……」
将軍が不思議そうな表情を浮かべながら首を
まあ、将軍の人気でここまで見送りが少ないなんてこと、今までなかったですからねえ。
「ですがお嬢……将軍、盛大な出迎えや見送りを、いつもはあれほど嫌がっておられるではないですかな? であれば、逆によろしかったのでは?」
「む……それはそうなのだが……何というか妙に落ち着かぬ……」
「はは、まあ仕方ないですよ。だって、他の民は
そう言って、俺は苦笑いを浮かべた。
「ふふ、まあな。さあ、では急ごう」
そして、馬を走らせること二刻(約三十分)。
「将軍、あの山が賊の住処ですぞ」
漢升殿の案内の下、賊がいる岩山のふもとに来た俺達は、早速辺りを確認する。
ふむ……漢升殿の言っていた通り、周りには木々もなく、岩肌を剥き出しにした山だねえ……。
それに。
「……どうやら我々が来ないか、警戒しているみたいですね」
根城である洞窟の前には、既に弩を手にした賊が数人配置されており、物見が周囲を警戒していた。
つまり、何者かが俺達があの里に立ち寄っていたことを賊に伝えていた奴がいる、ということだ。
……まあ、目星はついているけど。
「ところで漢升殿、昨夜お願いしておいた物は無事に調達できたようですね」
「はっは、もちろんこの通り」
俺達は、馬の鞍にぶら下げてある壺を見やる。
「あとは、連中を皆殺し……いや、せっかくだし一人だけ生かしておきますか」
「ふむ……だが、勢い余って殺してしまうかもしれんが……」
「まあ、できればという程度ですので、どちらでもいいですよ。どうせ、
「ふふ……そうか」
俺の言葉を聞き、将軍は軽く笑った。
「さあて……参るぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます